探偵と猫と少女と疑惑 6-6
一歩二歩。一体何があるのだろうか、と三歩目を踏もうとした――その時。
何かが光ったのが見えて、要は反射的に後ろへ下がっていた。
すると直後、さっきまでその頭があった場所を光が一閃した。
ナイフだ。下がったことで崩れた体勢を立て直しながら、要はそれを見た。闇の向こうから突き出されたのは、刃渡り十センチ程のナイフだった。どこの光を反射しているのか、少しでも動くたびにピカピカとしている。
良く切れそうだ、と要は思った。既に一匹の動物を切り殺した凶器にしては、綺麗な刃だ。
いや、それにしても綺麗過ぎるように見えた。ということは、まさか。
――まさか、もうひとり別人がいるってのか?
もしそうなら悪夢だが、どちらにせよここを乗り越えなければその「もうひとり」の犯行を阻止できるはずもない。
やがて、ナイフを持った手が、次いで肩が、顔が、遂には全身が、闇の中から露わになった。
男だ。フードを被った上に顔半分をバンダナで覆っているから顔は分らないものの、体型は紛うことなく男のそれだ。背丈はそれほど高くない。体つきから察するに、高校生くらいだろうか。口元の辺りが出っ張ったり凹んだりしている。かなり荒い呼吸をしているのだ。
じりっ、と要は後ろへ下がる。商売柄、これまで何度もこう云った場面には立ち会ってきた。刃物を持った相手と戦うのも、これが初めてではない。
だから要には、この状況が決して良いものではないことが判っていた。
視線が判別できないというのは、立ち合いにおいて悪い因子だ。大概の人間は、下手を撃てば命すら失いかねないこうした状況で冷静になることなどできない。だから、バレていることにも気づかず、狙う場所を見つめ、そこに攻撃を加える。
無論要も素人である。が、それでも仕事で幾度となくこうした経験はあるから、常人よりは余裕を持って、相手の視線を確かめながら戦うことが出来ていた。
しかし、今回は違う。フードと顔半分を覆うバンダナのせいで、相手が何処を見ているのかを知ることができない。
――逃げる、べきか?
ふと、そんな考えが胸を過った。
そうだ。そもそも戦わなければいけない理由などないのだ。目の前の男は不審者ではあるが、ついさっきの死骸を作った犯人とは限らない。だとすれば、この男の相手をすべきは探偵風情ではなく、警察だ。相応の訓練を積んでいるお巡りさんの仕事のはずだ
では、もしこの男が犯人であったら、どうするべきか。




