探偵と猫と少女と疑惑 6-5
自分で脳裏に浮かべた『警察』という言葉に、何か引っかかるものを感じたのだ。
一体何が引っ掛かっているというのか。一体、何が。
「……‼」
考え始めたその刹那。答えはすぐに見つかった。
昼だ。今日の昼、つい数時間前。葵の話だ。
要の脳裏に、葵が去り際に言い残していった言葉が蘇った。
『今日も実はその通報があったらしくて。何でもその男は野良の動物を』
野良の動物を、どうしていたというのか。その、通報された男は何をしたというのか。
動物に――屍。何をして――血。通報を――猫――ギンちゃん。
「っ!」
浮かんだ瞬間には既に、足が動いていた。女性の事も、ちらりと頭に浮かびはしたが、戻ることはしない。犯人が去ったのなら危ないことはないし、少し行けば繁華街だ。交番もある。
そんなことよりも、重要なのは。
「要様」
背後からユキの声がした、と思う間もなく、その姿が後方から走り出て来て横に並んだ。
「どうかなされましたか?」
見ている暇がないから表情は分らないが、恐らく心底不思議そうな顔をしているのだろう。要は歯を食いしばって走りながら、答える。
「次に狙われる猫は、俺らが探してるヤツだ」
「……何故そうだと?」
「勘だ」
「……」
ユキからの問い掛けは、そこで終わった。尋く価値なしと見たか、正しい判断だ、と要は苦笑いを浮かべた。
二人は来た道を、全力で戻る。全力で戻りながら、路地を覗き込む。怪しい影はいないか。動かない影はないか。赤い色は、無いか。不思議と歩道に人影は見えない。音のない街を、二人は走る。電灯の照らすその下を潜り抜ける。
――その足が止まったのは、走り出してから十分弱が経過してからだった。
「……」
覗き込んだ幾つ目かのその路地裏に影が動くのを見た気がして、要は立ち止った。
荒い呼吸を止められるほどの余裕はない。脇腹もじくじくと痛む。どれだけ走っただろうか。少なくとも十分は全力で、休むことなく走った筈だ。しんと静まり返った中、聞こえるのは要自身の荒い息遣いのみだ。
気づけば、ユキの姿はなかった。どこかで別れたのだろうか。そういえば、二手に分れたほうが探すのにいいと云った覚えがあった。
呼び戻すべき、だろか。
「……」
考え込んだその次の瞬間には、答えは出ていた。否だ。断じて、否だ。




