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探偵と猫と少女と疑惑 6-4

質す暇もなければ、迷っている暇もなかった。要はその背の行く方向へと、走りだした。

血相を変えて走る少女と男の二人組は目立つらしく、すれ違う人は皆、少しの間歩みを止めて、二人の後ろ姿を見送る。

走って、曲がって、また走る。声の主を見つけるまでに、それほど長い距離はなかった。

先を走っていたユキが足を止めたのを、要は見た。その顔は一方向を向いて微動だにしない。迷った訳でもないようだ。

ということは、つまり。

「見つけたか!」

その隣で立ち止まると、要は、ユキの見ている方に目を向けた。

そこにいたのは女性だった。若草色をした薄手の、春らしいコートを見にまとった女性が、地面に座り込んでいた。

「大丈夫ですか?」

呼びかけた声に反応して、女性は振り向いた。

「あ、あ、ああ……」

歯をがちがちと鳴らしながら、路地の奥を指さす。

その、示された方へ要は目を凝らして――そして、見た。闇の中、黒いアスファルトの上にある、赤い水たまりを。

明らかに血だ。血だまりの向こうに目を凝らすと、猫が倒れているのが見えた。ピクリとも動いていない、もう手遅れなのだろう。

「何があったんですか?」

問われた女性は、声を震わせながら答えた。

「い、家に帰る途中だったの。この路地から男が向こうの方に走り去るのが見えて。手に何か光る物を持っていて。それで、それで覗いたら」

「ああなっていたと」

語尾を引き取って呟いた要に、女性は仕掛けの壊れた人形のように、ぶんぶんと首を縦に振った。

「助けを呼んだりはしなかったんですか?」

「大声で呼んだわ。読んだけど……」

だけど。

遠く離れた自分たちの所まで届いたのだ。この辺りには人通りも未だある。誰も聞いていない筈はない。意図的に、無視したのだろう。

ぎり、と歯を食いしばった要は、しかしそれを当然とする自分が心の中に居ることにも気付いていた。

誰だって面倒は御免だろう。善意が報われるとは限らない。夜の路地裏、女の叫び声。それは、藪蛇という言葉と同意義だ。

そう考える要自身、この件に深入りするつもりは無かった。こういうことは警察の仕事だ、探偵の出番じゃない。

要は、懐から携帯電話を取り出し、百十番をダイヤルしかけて――その指の動きが、ぴたりと止まった。


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