探偵と猫と少女と疑惑 6-3
何だ、と思った。何だ、そんな事を考えていたのか。
そんなことならすぐに答えられる。
笑顔を浮かべながら、要は答えようと口を開いて、
「何故ってお前、それは――」
それは。
その口は、開いたまま固まった。明確な答えを、見出せなかったからだ。いや、適当な理由ならいくらでもひねり出せる。だが、そんなものを口にしたところで、きっとユキは満足しないだろう。
しかし、論理的な答えとなると、それもまた難しい。
「それは」
「それは?」
「それは、だな……」
言葉に詰まる。ユキに引き下がりそうな気配は無い。
どうしようか、と、要が進退窮まった――その時だった。
分厚く凝る静寂を容易く引き裂いて、叫び声が響いた。女の声だった。それが耳に届いた瞬間、要は、反射的に声の方に駈け出していた。目の前にはユキの背。要よりも遠くにいた筈だが、よほど早く反応したようだ。
二人は路地を抜けた。路地を抜けて、広い大路へ。
「くそっ、どこだ!」
その中央で立ち止まって、要は叫ぶ。
左右を見回す。薄い霧のような闇の向こうに、どこまでも同じような街並みは広がっている。大体の位置どころか、方向すら分らない。それもどうしようもない事か。聞えた声はあの一度きりだった。それもほんの数瞬だ。
――にも関わらず。
「こちらです」
声がして、視線を向けた時には既に、ユキは走り出していた。その背に迷いの気色はない。確信に満ちた動きだ。




