探偵と猫と少女と疑惑 6-2
そう。それこそ、まるで機能を停止した機械のように。
――ふと、嫌な想像が頭をよぎる。じわり、と背筋を何かが蝕む。
もしかしたら、このままユキは二度と目覚めないのではないだろうか。
恐怖にからられて、要は三度目の呼びかけと共に、揺り動かそうと手を伸ばした。
「……おい、ユキ?」
が、しかし。その動作は無駄に終わった。肩にその手が触れる寸前に、
「要様」
いきなり、ユキが動いたからだ。空へと向けられていた視線が、ぐりんと勢いよく要の方を向く。
「うわ⁉」
思わずあげた叫び声とともに、要は反射的に二三歩下がっていた。
「……何故、そんなに驚かれるのです?」
「い、いや別に」
要は取り繕うように、咳払いをする。言えるはずもない。もしかしたら『機能を停止』したのではないかと心配していたなど。
それは何となく浮かんだ、何の根拠もない想像だった。想像だったが、しかし、その想像が、自分のユキへの見方の中にある『違和感』をまざまざと表している気がして、何だかいたたまれなくなって。
「何か、考え事でもしてたのか?」
思考を切り替えようと、気を取り直して問い掛けた要は、
「……」
ユキの顔に、若干逡巡の色が浮かんだのを見た。
何か言いづらいことでもあるのだろうか。一体何が。
「……おーい」
重ねて、要は問うた。
その、二度目の呼びかけで、ようやく言う気になったのだろう。
「……」
要を見据えながら、ユキは呟いた。
「何故、あなた方はそうまでするのですか?」
「は?」
「たかが猫でしょう。自分の子供でもない。それどころか、捜している銀ちゃんは『ネコ亜目』『ネコ科』『ネコ亜科』『ネコ属』の生物であって、同じ人間ですらない」
なのに何故、と。
興奮の色も呆れの色もなく、ただ淡々と、『心底理解不能』といった表情で、ユキは言った。
対して、要はほっと胸をなで下ろしていた。




