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探偵と猫と少女と疑惑 6-1

すっかり、日は沈んでしまっていた。わずかに赤い残滓はあるものの、もはや星と闇の方が大勢力となっている。辺りを通る自転車や車もライトをつけての運転だ。

要は立ち上がると、背伸びをした。ぽきぽきという骨の鳴る音と共に、腹の底から出て来た呻き声が、口から洩れた。

腕時計に目を落とす。始めてから五時間弱が経過していた。ということは、葵たちが帰ってから、二人はずっとしゃがみっぱなしで捜していたことになる。

――そりゃ骨も鳴るわな。

右へ左へと体を捻ると、その動きに伴って、ぼきんぼきんと腰骨が音を立てた。

日が沈んで涼しくなったことで、幾らか悪臭は和らいだように感じる。とはいえ、臭い自体は未だにあるのだが。ムッと迫ってくる感じがなくなっただけマシのように思える。

路地の向こうに目を凝らすと、小さな赤い光が幾つも見えた。赤提灯だ。耳を澄ませば、車の音に混じって、酔っぱらいの高らかな歌声が聞こえた。もう、そんな時刻なのだ。そう考えてから、要は気づいた。そういえば確かに、悪臭に混じって何やら香ばしい匂いがすると。

鼻腔をくすぐり、空腹感を掻き立たせる良い匂いだ。そう感じただけではない。実際、低い音をたてて鳴りもした。五時間飲まず食わずだ、さもありなんと言ったところだろう。

だから要は、

「ユキ」

傍らで働いていたはずのユキの方を見て、「時間的にも良い頃合いだから、夕食にしよう」と言おうとして、

「……」

止めた。

ユキが、立っていたからだ。星の煌めきだした空を見上げて、無言のまま立っていたからだ。輝きに眼を惹かれたようでもあったし、することもないからといった風でもあった。確かなのは、その姿が一瞬、言葉をかけるのを躊躇ってしまう程に、絵になっていたということだ。

「……ユキ?」

二度目の呼びかけは、どこか様子を窺う気色が含まれていた。空を見上げたまま、ユキが微動だにしないからだ。瞬きすらもしない。


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