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探偵と猫と少女と疑惑 5-7
重ねて、ユキは問うた。
「お名前は何とおっしゃるのですか?」
「――知るか」
吐き捨てるように答えた要を、ユキはじっと見つめる。
「本当に、ですか?」
「知らねえよ、知りたくもねえがな」
同じ言葉を繰り返すようにして要は答えた。ユキの視線が強さを増した気がして、目を逸らした。
無言のまま、数秒が過ぎる。そして、
「そうですか」
と、ユキが頷いた。
それっきりだった。その応答を最後に、ユキは捜索へと戻った。
その、ゴミの山の前にしゃがみ込んだ背中を見ながら、要は小さく息を吐いた。
――危ねぇな、チクショウが。
高鳴る心臓をいなすように、ゆっくりと深く呼吸。
いつの間にやら浮かんでいた額の冷や汗を親指で拭ってから、要も作業へと戻った。
――要は、どうしてもユキに知られたくなかったのだ。
あの男が誰で、そして自分と一体どういった関係なのかを。




