64/97
探偵と猫と少女と疑惑 5-6
「要様」
と、不意にユキが言った。
「何だよ」
「今の方はどなたでしょうか」
「前に会っただろ、高坂あ」
「いえ、そちらではなく」
もう一人の方です、と。答えようとした言葉を遮って、ユキは問う。問いながら、じいっと要の顔を見つめる。まるで感情の動きをひとつ残さず見逃すまいとしているように。
その視線の強さに、要は少し気圧された。
知っていた。あの男の名も、どんな人間かも。
しかし、言いたくはなかった。どうにか答えずに済まないか、と要は考えた。が、いい案は浮かんでこなかった。
それに、どう見てもユキに引く気配はない。
仕方ない、とため息をひとつ。
「……あれは葵さんの上司の警部だ。気の利かねえ堅物野郎だよ」
これでどうだ、と要はユキを見る。
無表情に、ぶれない視線。まったく納得していない様子だった。勿論、そんな程度の情報で満足するとは要自身思っていなかったが。




