探偵と猫と少女と疑惑 5-4
にもかかわらず、葵は何度も何度も念入りに、しっかりと確認した。
そして、しっかりと確認してから、改めて要の方に向き直ると口を開こうとして――
その時だった。パトカーの中から、声がしたのは。
「――余計なことを言うな、高坂」
低く、地の震えるような声だった。その声に続いてドアの開く音に閉まる音がして、さらにその後、足音が近づいてきて、やがて止まった。
足音の主が立ち止まったのは、路地の入口だった。建物と建物の間。差し込んでくる光によって、その姿は黒い影となっている。
葵は慌てて要から数歩距離を取ると、影に向かって敬礼をした
「し、失礼しました、警部!」
声は上ずっていた。敬礼のために伸ばした右手は微かに震えていた。葵の緊張の程が、そこに見て取れた。
一方。
要は射抜くような視線で、影を睨みつけていた。ギリと食いしばった歯のその隙間から、声を漏らす。
「……テメエは」
その言葉に応じたかのようなタイミングで、足音の主は路地へと入ってきた。歩を進めることで黒い影は光に照らされて、明確な像が浮き出てくる。
男だ。四十か五十か、少なくともまだ還暦は迎えていないだろう顔つきに反して、その髪の毛は全くの灰色。ワイシャツにネクタイ、その上から羽織っているコートの三点は如何にも刑事といった感じだ。
男は敬礼の姿勢のまま微動だにしない葵の隣で立ち止まると、
「……久しぶりだな、要」
「ちっ……糞爺が何しにノコノコ出てきやがったんだ、ああ?」
心底不快気な表情で、要は吐き捨てた。が、男が意に介した風はない。視線を動かしてユキの方を見、再び要の方に戻すと問うた。
「……そちらの方は?」
「誰がテメエなんぞに教えるか」
ふんと鼻を鳴らしながら言った要の、その代わりに答えたのは、葵だった。
「ユキちゃんです」
「おい、葵さん!」
要は抗議の声を上げるが、葵は無視。敬礼の形を崩さぬまま言葉を続ける。
「何でも要君の知り合いの子との事です!」
「ほう」
男は興味深げな表情でユキを、次いで要を見た。




