探偵と猫と少女と疑惑 5-3
とはいえ、いずれそうしなければいけないのもまた事実である。いつまでもここに固執している訳には行かない。
「……ちっ」
ジレンマに思わず要が顔をしかめた、その時だった。
「あら、何をやっているの?」
声がした。路地の入口の方から、聞きなれた声音が。
要はそちらに目を向ける。
建物の黒い二つの影の間。光を背にしてそこに立っていたのは、
「……葵さん?」
黒いパンツスーツ姿の、高坂葵だった。ユキの姿を認めた葵は、笑いながら頭を下げた。
「こんにちは、ユキちゃん」
それに応えて、ユキも立ち上がると、こんにちはと頭を下げた。
「……」
その傍らで、要は考えていた。何故葵がここに居るのか。
しかし、その答えはすぐに見つかった。
葵の背後に、パトカーが見えたからだ。中に誰か乗っているようだから、通報か何かがあったその帰りなのだろう。
そう、通報が。
「……」
そこまで考えて、要はふと思い到った。
高坂葵。所属は桐山市警の、殺人課。
「……葵さん?」
「何? 要君」
いつの間に近づいて来ていたのか、ユキの手元のゴミの山を覗き込んで顔をしかめていた葵に、要は問う。
「何か、事件でもあったんスか?」
「あー、それは……」
問われ、顔を上げた葵は、何やら不安げな表情を浮かべ、それから何かを窺うように辺りを見回した。
要も同じように周りを見る。が、居るのは虫だけ、あるのはパトカーとゴミ袋だけ。そもそも人が三人横に並べば窮屈に感じるほどに狭い路地裏だ。そんなことをせずとも、他人が居ればすぐに分かるだろうに。




