探偵と屋根と少女と出逢い2-2
港だけあって、漁師の格好をした人が沢山いた。
だから、思っていたよりも早く、そして簡単に帰り道は知れた。
尋ねようと適当に選んだ最初の人がいきなり教えてくれたのだ。上下湿っている不審な男が問い掛けたにもかかわらず、だ。しかも、詳細な地図まで書いて渡してくれた。
ありがとうございます、と要が頭を下げると、そのねじり鉢巻きのおじさんは大したことではない、とでも言うように手を振って何処かへと立ち去ってしまった。
ありがたいことだと思いながら、貰った地図に視線を落とす。おじさんの持っていた広告の裏に、おじさんが持っていた芯の丸まった鉛筆で書かれている。いささか乱雑な線だが、それでも明確に読める。
地図によれば、ここから事務所までは歩いて二十分ほどの距離らしい。
疲れ切っているし、服も濡れている。本来ならばタクシーか何かを使いたいところではあるが、しかし使える金がない。何もかもが水と煤にやられてしまっている。
仕方ない。舌打ちをひとつし、要は歩き出す。
港を出ると、そこからはすぐ高層ビル街になる。初めて来た人が見れば、あまりの変わりように戸惑う事だろう。
人口約百万人のこの桐山市は、相反するものをありったけ詰め込んだかのような都市だ。海があれば山もあり、天を衝くような高層ビル街があれば風が吹いただけで塵と化しそうなスラム街もある。
そんな都市であるから、住む人種も種々雑多であった。黒、金、赤。髪の色も様々なら、瞳の色も様々。ついでに言えば、コーザ・ノストラ、チャイニーズマフィア、ロシアンマフィア、ヤクザ者などなど暴力組織も様々である。
にも関わらず、この桐山市においてそういった組織の表立った抗争はそこまで頻繁ではない。その威を借りたチンピラの起こす事件が月に一回起きるか否かといった程度だ。
どこかにいる資金源的人物に止められているからとか、新しく赴任してきた警察署長が睨みを聞かせているからとか、色んな噂がまことしやかに語られているが、その真偽は定かではない。
理由はどうあれ、国際色豊かな火種を飲み込んでいるにも関わらず、この桐山市がある程度平和であるのは確かだ──無論、先程の要のようなこともあるが、これは寧ろ自分から火を付けているため、例外だ。
ビル街を過ぎた。続いて見えてきたのはどこでも目に出来そうな、普通の町並みだ。パン屋があり、喫茶店があり、本屋があり。至って普通の光景だが、港と高層ビル街を経由してきたことを考えると、普通とは言い難くなる。因みに、ここを過ぎると次はスラム街や工場地のある地域で、そこを過ぎると市から出ることになる。