探偵と猫と少女と疑惑 4-4
もっともな言葉だ。味も解らず、空腹も感じず、栄養を補給する必要もないのならば、食事をわざわざする意味はないだろう。論理的だ。
対して。
「……」
分の悪さをひしひしと感じる要は、顔をそっぽに向けながら答えた。
「……別に、選ぶ条件は味や栄養だけじゃないだろ。色だったり、名前だったり――ともかく、どれでも気になったのを選びゃ良い」
――口から出たのは、一言一句違わず要の思ったことだ。
難しいことは解らない。
どんな原理で『育つ鋼』が様々な効果を人体にもたらしているのかも。その効果が果たして良いことなのかも、解らない。
けれども、要はこう思うのだ。
食事は大事である、と。稚拙な論理であるという自覚はあった。あったが、言い出したからには、引く気はなかった。
尚も訝しげな視線を向けてくるユキに、要はふんと鼻息も荒く、胸の前で腕を組んで決意を態度に示す。
結果。
それが何となく伝わったのだろう。ユキは要とメニューとを何回か交互に見た後、店員を呼んだ。
そして、メニューを指差すと、
「では、ここからここまでを」
「おい待て馬鹿野郎」
慌てて要はユキからメニューを奪い取ると、適当に注文をした。
「コーヒーふたつに、オムライスひとつ」
店員はかしこまりましたと頷くと、踵を返して店の奥へと去っていく。
その背を見送ってから、要は低い声でユキに問う。
「・・・・・・何考えてやがんだ」
「要様がご自身が、『気になったものをどれでも選べばいい』と」
「限度ってものがあるだろうが‼」
真顔でペースを乱してくるユキに、要は頭を抱える。
それから間もなく、料理が運ばれてきた。
花柄の白磁のカップに入った黒いコーヒーが二つに、オムライスがひとつ。
昔ながらの、卵のしっかりしたオムライスだった。上には赤いケチャップがこれでもかとかけられている。
「ほらよ、」
要は目の前に置かれた美味しそうなそれを、そのままユキの方に滑らせた。
が、しかし。
「……」
ユキは手を付けようとしない。自分の目の前のそれをじっと見たままだ。
「どうした、食わねえのか?」
要の問いに、ユキは、顔を上げて問いを返してきた。
「……要樣は、どうなさるのですか?」




