探偵と猫と少女と疑惑 4-2
確かに、丁度いい時間ではある。聞き込みと食事、同時に行えて一石二鳥にも思える。
だが。
――駄目だ。
未だ手掛かりを何ひとつ手に入れていない状況で、飯など食えるわけがない。
まずは依頼を果たすことに専念すべきだ。そう自分に言い聞かせながら、要はユキに声をかけようと後ろを振り向いた。
しかし、向けた視線の先。
そこにユキの姿はなかった。
どこに行ったのかと、慌てて要は辺りを見回す。
右往左往したその視線は、やがて、一点で止まった。
店の隅。空いていた席に、その姿はあった。そこに座ったユキは、しれっとした顔でメニューを覗き込んでいたのだった。
いつの間にそこに行ったのか。いや、それよりも先に問うべきは。
「……何してんだ、テメエは」
頭痛を堪えながら、歩み寄った要が小声で訊くと、ユキは答えた。
「ここが空いていたので」
悪びれた様子もないその回答に、怒る気も文句の言葉も奪われる。
「……ちっ」
舌打ちと共に、要はユキの真向かいへ、どすんと腰を下ろした。
別に、ユキのこの行動によって時間が無駄になったとか、何かが失敗したとか、そういったことは無い。
無いが。
――ちっ。
自分でも理由は分からないものの、『何か』が気に入らなくて、要はユキを睨みつける。
が、ユキは気づかない。気づいているのかもしれないが、意に介している様子はない。
「……」
ただ一心不乱に、この店のメニューを見ている。
そのあまりの集中っぷりに興味を惹かれて、
「……」
要ももう一冊を手に取って眺めてみた。
ぱらぱらと捲って、すぐに閉じた。大して興味深いものではなかった。
味はどうだか知らないが、少なくとも書かれている料理名と、その傍らに貼られた写真は一般的なそれとほとんど変わらない。
では、一体何をそんなに集中して読んでいるのか。




