探偵と猫と少女と疑惑 3-1
夕暮れ時である。
赤く染まった空にはカラスが連れだって飛んでいる。
皆家に帰る途中なのだろう、道行く人の顔も一日が終わった喜びに満ちている。
そんな時刻。桐山市中の、飲み屋や料亭が集まっている地区。
「ありがとうございました、何かあったら連絡下さい」
赤ちょうちんのぶら下がっている店から、声とともに出てきたのは要だ。にこやかに言って、扉を開けて、閉めて、暖簾を潜って。
日の下に出てきたその瞬間、表情が一変した。疲れと苛立ちをにじませた顔つきになる。
「……ちっ」
舌打ちと共に懐から取り出した手帳に、要はバツを書き入れた。その上にも様々な店の名前が書いてがあるが、いずれの横にも同じようにバツが書かれている。
収穫なしということだ。
「ここもですか」
外、店の裏にある小道などで目視による捜索を行っていたユキが近づいてきて訊いた。
要は肩をすくめながら、答えた。
「……ああ。『猫なんか見飽きていて、どれがそうだか分からねえ』だってよ」
ため息とともに、小脇に抱えていた帽子を被る。どこの店のどの店員からも、大体似たような答えが返ってきた。納得できなくもないが、こうまで収穫なしだと怒りを覚えてしまう。
「で、そっちは?」
せめてもの望みを賭けて問うたが、ユキは首を横に振った。
つまり、見つからなかったという事か。
「……」
最初から希望など持ってはいなかったが、それでもやはり落胆は覚えるものだ。どっと疲れが襲ってきて、道端の電柱に寄りかかった要はそのまま空を見上げた。
手帳に書いてある、『ギンちゃんのいなくなった場所』から半径数百メートルの内にある店はあらかた調べ終えた。結局無駄だったわけだが。
今や万策尽きたようにも思える。手がかりも何もない。
こうなったらもっと範囲を広げるべきか。
それとも、現在の範囲の内まだ訪れていない店を虱つぶしに訊きこむべきか。
どちらにするにせよ、時間はまだまだかかるだろう。
「……はあ」
果ての未だ見えない依頼に、要は肩を落とす。
――と、その時。




