探偵と屋根と少女と出逢い2-1
「チクショウが……」
波止場に腰掛け、足でちゃぷちゃぷと水を蹴りながら、要は濡れた下着を絞っていた。傍らには絞り終わって丸まったジャケットにとワイシャツ。つまり、今の要は上半身素っ裸という訳だ。
向こうを見れば、未だに黒煙を上げ続けている小屋が見える。野次馬やら警察やら、とにかく大勢が集まると思ったが、それほど大事とは見られなかったようで集まったのは消防士含め、ほんの十数人程度だった。
くしゅっと、くしゃみが出た。鼻をかもうとするが、ティッシュは服と一緒に濡れてしまっているからどうしようもない。暦の上ではとうに春になっていはいるが、やはり肌を晒している状態は宜しくないようだ。
さて、どういう手に出ようか。要は鼻をずるずると鳴らしつつ考える。黒服達が要の生存を知ったとして、不都合はあるだろうか。
二回目の攻撃は恐らくない。市中第二位の勢力が、たったひとりの探偵を殺し損ねた。そんなことがばれたら権威の失墜は不可避だ。そう考えると二回目の攻撃は恥の上塗りでしかない。そのくらいだったら、あれは失敗ではなくただの脅しだった、そう言い張った方が増しな気がする。というかそもそも、今回の拉致監禁にはその感じがある。本気で要を殺したかったのなら死を確認したうえで燃やせばいい訳だし、そもそもすぐ近くは海なのだから、そこに沈めてしまえば跡も残らず好都合なはずだ。なのにそれをしなかった訳だから、殺意の有無すら怪しい。
だが、もしこれから要が警察に行ったら。
それこそ自分で自分の首を絞める行為に他ならない。
現在、この桐山市では警察による犯罪集団の取り締まりが厳しくなりつつある。少しのきっかけさえあれば、警察が本拠地へ堂々と踏み込んでくる状態だ。もし、もしそんな状況の中で、警察にそのきっかけを与えるような真似をすればどうなるだろうか。考えるまでもなく、答えは明らかだ。
――それに、要個人としても警察には含む所がある。わざわざ協力する義務はない。
「さてと」
あらかた絞り終わった。乾いてはいないが、それは仕方のないことだ。
下着に、ワイシャツに、ジャケット。順番に着る。どれもこれも肌に張り付く感じがあって、あまり良い着心地ではない。本来ならば下の方も乾かしたいところだが、さすがに外でそれは無理だ。
全てを着終えた要は立ち上がった。背伸びをすると、背中の辺りでぼきりぼきりと骨が鳴った。
これからどうするか。とりあえず、
「いったん事務所に帰るとするか……」
とはいえ、この辺りの地理には詳しくない。お金は全て濡れてしまったから使えない。大まかな地名や位置関係くらいなら知っているが、事務所への詳細な道順は判らないから、歩いて帰るにも心もとない。
どっかで道でも聞くかな、と要は人を探す。
教えてもらえたのは、それからすぐだった。