探偵と猫と少女と疑惑1-5
一体何だ、とその視線を辿った結果、要は藤沢の表情の理由を理解した。
視線の先には、ユキが立っていた。
「あ、ああ失礼。そしてこっちが、助手です」
慌ててユキを紹介する。ユキは、助手ですと言いながらお辞儀をした。
「そう、助手さん。随分若いのね?」
「ええ、私の知り合いの娘でして……仕事を手伝わせてくれと言い張るんですよ」
言いながら、形ばかりの苦笑い。
もちろん嘘だ。だが、これが嘘だということは、今のところは要とユキしか知らない。藤沢はおろか夏目家にも、要はユキのことを同じように紹介している。
「……さて、それでは本日いらした理由をお聞きしてもよろしいですか?」
嘘を吐いているという後ろめたい感情を振り払うかのように、ごほんと咳払いをひとつして、要はそう問いかけた。
「え? ……あ、ああそうだったわね」
藤沢は一瞬呆けた表情を浮かべた後、気づいて何やら鞄の中を漁り始めた。ごそごそと中身をかき混ぜるように手を動かし、その数秒後に、何やらを掴みだして、テーブルの上に置く。
要はそれを覗き込んだ。
「これは……」
写真。猫の写った、写真だ。
黒に茶色に白の三毛猫で、要の目では、今この瞬間も夏目軒の裏でゴミを漁っているであろう野良の違いをその姿に見出すことは出来なかった。唯一つ、桃色の首輪を除いては。
「……」
写真から、要は目を上げる。
その視線に応えるように頷きながら、藤沢は言った。
「この子を、捜して欲しいの」
――この子を、ねえ。
つまり、依頼は猫捜しということだ。
表情を崩さないよう努めながらも、要は脱力を禁じ得なかった。
以前のように裏社会の人間が、境界線ぎりぎりではあるが一応表社会に属している自分に接触してくることなどそうそうあることではないという事は分かっていた。分かってはいたが、それでもまさか『ペット捜し』の依頼が来るとは。
だがしかし、冷静に考えれば、依頼が平穏無事なものであるに越したことは無いはずだ。簡単な依頼で金を貰えるのだから、上々だろう。
そう言い聞かせて自分を納得させた要は、さっそく詳細に入ろうとして、
「つまり、この猫を」
「この『子』ね? 名前はギンちゃんよ」
いきなり出鼻をくじかれた。
高飛車な物言いに、要はいささかムッとする。
――んなもん、どっちでもいいだろうが‼
そんなことを思いもしたが、もちろん口には出さない。目の前に座っている藤沢が、その言を許しそうにない。笑ってはいるが、語調もやわらかではあったが、その全身からは『それ以上の失言は許さない』という気配が発せられていた。
それに、そもそも藤沢は依頼人である。依頼人を不愉快にする必要は無い。
「……ギンちゃんを、私共で捜せば宜しいのですね?」
厭味ったらしい程に鮮やかな笑顔と共に、要は問い掛けた。
それでいいの、とでもいうかのように、藤沢もまた笑顔で頷いて、「ええ、お願いします」と、言った。




