探偵と猫と少女と疑惑1-2
そして、怒りに震える声で、
「お前……ここ構っただろ」
問われたユキは、そんな要の様子も意に介していないのか、平然と頷き、
「はい。ファイル内の書類の順番も、ファイル自体の配置も一貫性のないものだったので、日時順にやり直しておきましたが」
そこで言葉を一旦切って、本棚を一瞥し、それから視線を再び要に戻して、
「何か、問題でも?」
「『何か、問題でも?』じゃねえよ、バーカ‼」
ユキの口ぶりを真似ながら、要は激高した。そのまま本棚へと歩み寄ると、並べられているファイルの背表紙をぱんぱん叩きながら訴える。
「一貫性はあったの‼ お前には感じられなかったかもしれないけど、俺の中ではあったの‼」
一貫性はあった。
その発言に納得できなかったのか、今度はユキが要に問うた。
「一体、どのような?」
「それは、あれだよ。苦労した順だったり、思い出深い順だったり」
「マフィアとやらに拉致された人間の奪還より、カメ探しの方が苦労したのですか?」
「……」
単刀直入に返されて、要は言葉に詰まった。
何も反論出来ない。出来る筈もない。そもそもユキの言う事が正しい、『一貫性がある』というのは出まかせなのだから。勝手にファイルをいじられたのが嫌で、理路整然と返されたのが悔しくて、思わず口から出てしまったのだ。
けれど。
ここで黙るのもまた、ユキに論破されたのと同じことである。そう思い到った要は、すぐにユキの方へ向き直り――。
「――それはさておきだ」
逃げた。まったく男らしくもなければ大人気もない所業である。
ただ、本人にもその自覚はあるようで、その表情には多少羞恥の色がある。
それでも。頬を赤く染めながらも尚、要は言い募る。




