探偵と猫と少女と疑惑1-1
陽光が燦々と降り注ぐ。木々の葉は柔らかな風にそよぎ、青い空には白い雲が流れている。
うららかな昼下がりである。
休日ではあるが出歩く人の姿は少なく、辺りは比較的静かである。
そんな穏やかな時間を、突然、悲しげな叫び声が破った。
「な、なんじゃこりゃあああ‼」
叫び声が聞えたのは、食事処〈夏目軒〉の二階の窓から。そう、〈幅木探偵事務所〉からである。その叫び声のに驚いたのか、通りで欠伸をしていた桃色首輪の白猫が立ち上がり逃げ出した。
一方。
「あ、あぁ……」
事務所内で、幅木要はおののいていた。数多くのファイルが詰まった本棚の前で、その兩手にもファイルを掴みながら。
――一体なぜ、彼は叫び声を上げたのだろうか。
一見したところでは、本棚もファイルもきちんと整頓されている。叫び声を上げるような惨状には見えない。一体なぜか。
その答えは、単純である。
本棚がきちんと整頓されているからこそ、彼は声を上げたのだ。
「どうか致しましたか? 要様」
本棚の前で固まっている要のその背中に、声がかけられた。要はそちらへ振り向く。いつのまにやら表情を、鬼気迫る物へと変化させて。
振り向いたその視線の先には、声をかけたの少女が立っていた。
この少女、名前をユキという。数週前から要と、この事務所で同居している。出会った時からの無表情は今もなおそのままだが、服装はそれから変化していて、今は白いブラウスに赤いネクタイ、それに加えて裾が膝くらいの位置にあるチェック柄のハーフパンツを着用している。
これは事務所の家主の娘である夏目有紗がもともと着用していた物で、故あってユキがこの事務所に住むことになった時に、有紗の母と有紗本人が譲ってくれたのだ。いや、今はそのようなことはどうでもいい。
能面のような顔でたたずむユキに要は、ずんずんと鼻息も荒く詰め寄り、背後の本棚を指さす。




