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幕間-1

ユキが事務所に来てから、数日後のことである。要は事務所のデスクに座って、雑誌を読んでいた。

時刻は夕方。桐山市のこの時期にしては珍しく、雨天だった。滴が強い勢いで窓を叩く。

ユキの姿は無い。朝から出かけていた。

どこに行ったのかは知らないし、よほどの悪所でない限りはどこへ行こうと別に構わない。たまには一人もいいと、要は朝から孤独を満喫していた。

ひとりで朝食を作り、ひとりで書類仕事を済ませ、ひとりで昼食を食べ、ひとりでコーヒーを淹れる。

そうして、全ての仕事を終えた要が、朝から数えて十杯目のコーヒーを飲みほした、その時だった。

雨だれの落ちる、ざあざあという音のその間から、別の音が聞こえてきた。

事務所の扉をノックする音だ。

有紗のそれではない。もっと優しくて、遠慮が感じられる。要は机に載せていた足を下ろすと立ち上がった。

と、声がした。

「御免下さい、ここが『幅木探偵事務所』樣でよろしいのでしょうか」

か細い、儚い声だった。


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