探偵と屋根と少女と出逢い6-7
ともあれ、今のところ少女の復讐が叶わないということ、少女自身にその意思が無い様子を、要は理解した。
それに、そもそも少女の望みはそこではない。
「……お前、『傍らに置け』とか何とか言っていたよな?」
ええ、と少女は頷く。それを見ながら、要は問うた
「もし、俺が『駄目だ』と言い張ったらどうする?」
そもそもそんな質問をすること自体、少女の希望に回答しているも同然だ。
自分が陥落したことを感じながら、要はそれでも訊ねた。
それを知ってか知らずか、少女は平然と、
「その場合は、要様の目に触れない位置で行動を共にさせていただきます」
つまりはストーカーということか。
――よくもぬけぬけとまあ。
「は、はは……」
思わず笑いが漏れてしまう。もうこうなっては拒否の使用もないだろう。要は、少女を見つめながら、
「良いだろう。理由は良く分からないが、そんなに居たいなら居ればいい」
そう告げながらも、但し、と釘を刺して、
「『傍に置く』んじゃねえ。ここで、『探偵助手』として働いてもらう。天井の修理費、己の食い扶持、その他もろもろの全て。テメェの分は、テメェで稼ぎやがれ」
分かったか? と要は問うた。
少女はこくんと頷いた。
「構いません」
相も変わらず無表情である。
見た目は良いのだからニコリと笑えば良いのにと思いながら、要は手を差出
「よし、じゃあよろしくな――」
そこで詰まった。名前を呼ぼうとしたのだ。けれども、要が少女から教えられた名前は、
――二号、か。どうすればいい。
その、少女に『育つ鋼』とやらを移植した奴らと同じ呼び方を。少女をモルモットか何かと同一視しているようなその呼び方を、要は絶対にしたくない。
けれど、なら他に何と呼べばいいか。とっさに出て来ることではない。
「……」
困った要は、ヒントを求めて窓の外を見ると、小雪がちらほらと舞い始めていた。
それで、決まった。
「……よし、お前の名前はユキだ。二号じゃない。いいな、ユキ」
再び、手を差し出す。
「分かりました、よろしくお願いいたします」
少女はその手を握る。見た目通りに柔らかく、見た目通り白雪のようにひんやりとした手だった。




