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探偵と屋根と少女と出逢い6-6

「要様もすでにご覧になったはずでは?」

そう、少女のいう通り。先日の覆面。ついさっきの包丁。その二つの事例は、少女の言葉に十分すぎるほどの説得力を与えていた。

だが、それでも要にはひとつだけ、少女の言葉の内に、納得できなかった箇所があった。

「……つまりお前に力を与えているのは、その『育つ鋼』なんだな?」

「ええ」

要の言葉に、少女は頷いた。

「その『育つ鋼』ってのは、移植されたものなんだな?」

「ええ」

少女は再び、頷いた。

「じゃあ、最後に利かせてもらおうか――」

そして、要は言葉を一旦を切り、突き刺さるほどに鋭い視線で少女を見据えながら、問い掛けた。

「――その移植ってのは、お前の同意があってのことか?」

少女は今度は、頷かなかった。首を横に振り、こともなげに、

「いいえ、気づいたらこのような形になっていました」

一瞬のうちに、頭に血が上った。要は勢い良く立ち上がった。その際足がテーブルに当たって、揺れたカップからコーヒーが零れた。

じわじわとテーブルの上に黒色が広がる。しかし、要はそれには目もくれない。

「……何処にいる、そいつら」

震える声で、問うた。

「探して、どうなさるおつもりで?」

「『どうなさる』も何もあるか‼」

自分の感情を制御できず、荒い声が漏れた。落ち着け、と要は自分に言い聞かせ、

「……相応の罰を与えてやる。お前だって、思うところはあるだろう?」

そのはずだ。例え不自由は無いにしても、例え良いことずくめにしても、本人の意思によらないそんな行為が許されてたまるか。

警察に突き出してやる。それが駄目なら俺一人だけでも殴りこんで――

しかし、鼻息も荒く復讐を思う要を、少女の言葉が止めた。

「大変申し訳ないのですが、その記憶は凍結されています」

「……凍結だと?」

ええ、と少女は頷き、

「何らかの手段によって外部からは閲覧できないようになっているということです」

「……」

凍結。外部。閲覧。生身の人間にしか見えない少女の口から、無機物的な言葉がポンポンと顔を覗かせる。

一体この少女は、どんな世界で生きて来たのか。


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