探偵と屋根と少女と出逢い6-5
いや、埋まっているだけではない。その黒い物体から何本もの筋が、まるで血管のように伸びているのを要は確かに見た。
少女はその黒い物体を『私の核』と言っていた。それは、つまり、
「私を作った者達は、これを『育つ鋼』と呼んでいました」
要が見たのを確認すると、少女は襟元を直す。やはり無表情で恥じらいなどは微塵もない。寧ろ見せられたこちらの方が何やら気恥ずかしくて、
「育つ……鋼?」
要は、視線を逸らしながら呟いた。
「ええ、この鉱石は宿主の成長に伴って、その体に『根』を伸ばします」
少女は立ち上がると、先ほどまで座っていたソファーに戻り、座った。
「根?」
その後に続いてソファーに腰を下ろしながら、要は思い出す。
言われてみれば、確かに先程の黒い筋は植物の根にそっくりだった。
少女はすっかり冷めたコーヒーをひと口飲むと、続けて言った。
「体に『育つ鋼』を移植された宿主には、その根の浸食の進行に伴って様々な現象が起こります」
「は?」
唐突に変わった話の雰囲気に、要は戸惑う。が、少女は構うことなく言葉を続ける。
「まず、人格の消去」
「おい」
「続いて骨や筋肉など、肉体の強度硬度、身体能力の増加。傷の回復速度の上昇。脳の処理速度の高速化」
「待て」
「さらにそれに加えて――」
「おい、おいちょっと待てって」
どれだけ止めても言葉を続ける少女に業を煮やした要は、幾分強めの語調で言う。
「何か?」
それでようやく少女は言葉を止めた。止めはしたが、何故制止されたのか分かっていないようだ。
「……お前、本気で言ってるのか?」
現実味のない言葉の奔流に、要は眉間を揉みほぐしながら問う。思考が追い付いていない。本来であれば、バカな事をと鼻で笑うところだが、今となってはそうもいかない。




