探偵と屋根と少女と出逢い5-4
店内の見える位置に人はいない、通報してくれそうな人もいないということだ。
時間が経てば、どこかにいる誰かが気づく可能性もあるが、それがいつかは全くの不明だ。
――ったく、腹ごしらえしておいてよかったぜ。
こうなれば我慢比べだ、と要が腹を決めた、その時だった。
「……」
ぐるり、と少女の顔が回った。
要を見ていたその目が動いて、拳銃で止まった。
まずい、と要は思った。何故かは分からない、根拠も何も無い。無いが、しかし。その感情は何よりも現実味を持って、胸騒ぎと共に全身を駆け巡った。
要は席から立って、少女を止めようとした。
自分が撃たれる可能性など、頭になかった。手を伸ばし、押さえつけようとした
だが、無駄だった。少女の方が、速かった。
すっと立ち上がると、少女は自分に向けられていた拳銃の銃身をするりと掴み、それを男の手からもぎ取った。
まさか抵抗されるとは思っていなかったのだろう、呆然とした顔のまま、男はされるがままだ。それはそうだ、まさか嫋やかな少女がそんな手に出るとは夢にも思っていなかっただろう。
そして、それが男の破滅を生んだ。
もぎ取った銃を一瞥し、少女はぽいと無造作に投げ捨てて――そのまま男の革ジャンの襟首をつかみ、まるでボールを投げるかのようにして、壁に向かって投げつけたのだ。
すごい勢いで男は飛んで行った。机をなぎ倒し、椅子を吹き飛ばし、まるで漫画の様だ。
けれど、その飛翔も長くは続かなかった。建物の中だから、当然壁がある。投げつけられた男の先にも勿論。
一直線にすっ飛んでいった男は、壁にぶち当たると、
「ぐひゃぇ」
と、形容しがたい声を漏らし、そのままずるずると床に落ちて、それっきり動かなくなった。死んではいないだろう、多分。
兎も角、これでひとりは片付いた訳だ。しかし、まだだ。この場にはまだ、もうひとりいる。
それを要は忘れていた訳ではなかった。ただ、予想を上回る少女の行動に呆気にとられていて、
「な、何だ……何なんだ、テメエはぁああああ‼」
――それが、致命的な遅れを生んだ。
残ったひとり。男は声音と腕を振るわせながら、背中を向けている少女へ銃を向け。
気付き、阻止しようとした要の鼻先で引き金は引かれて、銃声が店内に響き渡り。
それとほぼ同時に、ぱっ、ぱっ、と少女の背中に赤い花弁が咲いた。
身を襲った衝撃にゆらりと身を揺らした少女は、しかしそれでも踏ん張った。
一歩。足を前に出し、倒れそうになった体を支えた。
が、出来たのはそれだった。




