探偵と屋根と少女と出逢い5-3
言葉と共に耳元でした、かちりという音に、要は動きを止めた。
横目で確かめると、革ジャンに覆面の男が立っていて、その手に持った何かを要のこめかみに突き付けている。
よく見れば、それは。
――拳銃、かよ。
本物かどうかは分からない。少なくとも、確かめようとは思わない。
要は唾を呑んだ。
立てこもり、もしくは強盗。つまり、犯罪だ。
繁華街の中にあるとはいえ、警察署からも程よく近いこんな店で犯罪に遭遇するとは。
要は考えた事すらなかった。
額から流れ出た冷や汗が、頬を伝って顎へと落ちる。
見れば、向かいの少女の横にも革ジャンに覆面の男が立っていて、そのこめかみに拳銃を突き付けていた。こんな時でも少女は無表情を崩さない。まったく大したタマだ。
そしてその、少女に銃を突き付けている男の革ジャンに、要は見覚えがあった。
このファミレスに入店した時、要達より前に入っていた三人の客。同じ席に座っていたその三人の客の内の一人が、これと同じ模様の物を着ていた。だから、目の前に一人いて、すぐ横に一人いて。
じゃあ、もう一人は。
要はゆっくりと、目立たないようにしながら周囲を見渡す。けれど、今この場にいる四人以外に人影はない。厨房かどこかにいるのだろう。
それにしても、いつの間に近づいたのか。どうやら雑談に夢中になり過ぎていたようだ。悔やんでも悔やみきれない。
コツコツとこめかみに銃口が当たって、要は身を硬くする。探偵という職業柄、目にしたことは何回もあったが、それでもやはり慣れるもんじゃない。
それに、恐怖を感じるのは拳銃からのみではない。
もっと怖いのは、その持ち主だ。
少なくとも、要の見る限りでは、目の前で少女に銃を突き付けている男はその扱いに慣れていなさそうだ。
覆面の穴から覗く目はやたら瞬きしているし、呼吸も荒い。少なくとも荒事に慣れている人間の動作ではない。
そういう、反射的に引き金を引きそうな奴が一番恐ろしいのだ。
「……何だお前らは」
挑発しないように押し殺した声で問うと、
「うるせえ、静かにしろ‼」
その数倍の大きさで返事が返ってきた。かなり興奮しているようだ。




