探偵と屋根と少女と出逢い4-8
―葵が何故、何に迷っているのか。その正体を要は知っていたし、次にどういった言葉が聞こえるかも、分かっていた。
ここに来て葵と会うたびに、まったく同じ言葉を投げかけられてきたからだ。
そして。
要の予想通り、今回もやはり同じ言葉が来た。
少し黙った後、おずおずといった調子で葵は問うた。
「……会っていかれないんですか?」
これまでと一言一句違わぬ言葉だった。
そんな葵に、要は、
「――失礼します、そんな時間はないんで」
これまでと一言一句違わぬ答えを返すと、それっきり振り向くことなく、少女を引き連れて部屋を後にした。
数十分後。
市警から数キロ離れた位置にある、ファミレス。
その窓際にある四人掛けの席に、二人はいた。
「まったく、ひでえ目に遭った……」
白い皿に乗った真っ赤なナポリタンをフォークに巻きつけ、口に運びながら要は呟く。
「……」
その向かいには少女が座っていて、既に飲み干したアイスコーヒーのグラスに残っている氷をストローで突いていた。
――時刻は夕方、五時少し前。
太陽はいくらか地平線の向こうに隠れてはいるものの、いまだ辺りは明るい。
昼食というには遅過ぎであるが、夕食というには少し早めである。
事実、二人の周囲にも客の姿は無い。喫煙者席の方に二つ三つ人影が見えるけれど、それでも店の本来の許容人数から考えれば十分の一も入っていない。
何故、こんな時間に要は食事をとっているのか。
理由は簡単である。もちろん、空腹だからだ。しかし、今回の要の空腹は並大抵の空腹ではなかった。
何せ、朝から何も食べていなかったのだから。
朝は黒服の男たちに拉致監禁されていたせいで、昼はどこかの誰かが天井をぶち破って降ってきたせいで、要は食事をとれていなかった。




