探偵と屋根と少女と出逢い4-8
痛みを堪えて要は答えようとしたが、余りの痛みで言葉が出ない。口をパクパクさせるばかり。
「何か、言いました?」
二度目の問い。
喰いしばった歯の間から言葉を押し出すようにして、要はそれに、ようやく答える事が出来た、
「いいいいい言ってないです‼」
「よろしい」
頷くと葵は両手を離した。
自由の身となった要は、慌てて戸の方へと距離を取る。気性から二度目は無いと分かってはいるが、それでも恐ろしい。
肩を回す。口の中を確かめる。声が出ないほどの痛みを感じたにもかかわらず、体のどこにも異常は見当たらない。
見た目はどうあれ流石は刑事、人を行動不能にする術には長けているのだ。
――さて、と。
体を確かめ終えた要は、何も見ていなかったかのようにすまし顔の少女に、行くぞと声をかけた。
要がこの警察署でやりたかったことは終わった。結局不首尾に終わったが。
だから、もうここに用は無い。
「じゃあ、これで失礼します」
「お役に立てずに申し訳ないです。
あ、あと気を付けてくださいね、近頃いろいろ物騒ですから」
「はいはい、分かってますって」
葵の言葉に適当に返事をすると、要は、少女を促して小部屋から出ようとする。
と、その背中に声がかけられた。
「……要くん」
もちろん葵の声である。けれど、これまでとは何やら様子が違った。
少し迷っているような声だ。
「……はい?」
要は振り向かずに答えた。振り向くつもりは、無かった。




