探偵と屋根と少女と出逢い4-7
葵が勘違いしていること、その内容、全てが手に取るように分かった。
冗談じゃない、それは根も葉もない妄想だ。そう否定したかった。しようとした。
だが、葵の方が早かった。
「ま、あなたなら大丈夫でしょう」
呟き、うんうんと一人で頷いている。
言葉が出ない。
もはやこうなった葵の意思は変えようがないことを、要は付き合いから理解していた。
もう諦めるしかない訳だ。
けれど、このまま引き下がるのも何だか気に入らなくて。
だから要は、小声で呟いた。
「……嬉しかねえよ」
この、ちんちくりん――そう言い終わったか終らないかの、その刹那だった。
要の視界が一転した。急に、何かの力によって動かされた。
そして、気づいた時には、頬に冷たい感触があった。
テーブルだ。ついさっきまで目の前にあったテーブルに顔を押しつけられているのだ。
同時に、腕にも痛み。関節を極められていた。
葵の目にも留まらぬ早業だ。しかも、かなり効いている
無論、要は葵が怒ると知った上で言ったのだが、その代償は大きかった。
「何か言いました?」
視界の外、顔の上の方から葵の声が降ってきた。
先程までと全く変わらない穏やかな声なのが、逆に恐ろしい。




