探偵と屋根と少女と出逢い4-6
「家出の届け出とかから、探せないんスか?」
少女はここにいるのだから、その家族がそういった届け出を出していてもおかしくない筈だ。
それに少女の服のボロボロ加減からは、かなり長い期間家に帰っていないことが見て取れた。
だからきっと、届け出を漁れば身元が分かる筈だ――そう要は思っていた。
が、その考えを葵は一言で断ち切った。
「ありませんよ」
「は?」
聞き間違いか、と要は思った。
それが表情から分かったのだろう。葵は言い聞かせるような口ぶりで、
「話の間に調べてみましたが、そのお嬢さんの特徴に当てはまる家出の届け出はありません」
ほら自分で確かめて御覧なさいとでもいうかのように告げると、テーブルに置いたファイルを要の方に差し出した。
要はひったくるようにしてそれを取ると、関係のありそうなページを片っ端から調べた。
確かに葵の言う通り、傍らの少女に該当する条件の届け出は見当たらない。
それでも要は、何度も何度も調べる。そのことを信じたくはなかった。
考え得る限り、最悪の展開だったからだ。
けれども、どれだけ探しても、葵の言うとおりだった。
ということは、つまり。
ゆっくりとファイルから顔を上げた要に、葵は無慈悲に告げた。
「出ていない以上、私達が保護するのは難しいですね」
言葉が出なかった。
事務所を出た時には既に嫌な予感があった。こうなる可能性も考えてはいた。
しかし、いざそれが現実となると、どうにも受け入れられなかった。
だから要は、祈るような心持で葵に頼んだ。
「……せめて、こいつを引き取ってもらえませんかね」
それに対して、葵が答える前に、少女が口を開いた。
「私は要から離れません」
「……あらあら?」
聞いた葵がにこにこ笑いながら、要の方を見た。
要はその視線から顔を背け、同時に少女を睨んだ。
全てが嫌な方向に進んでいる。
――『あらあら』じゃねえよ、『あらあら』じゃ。
要は心中で呻いた。
葵が勘違いしていること、その内容、全てが手に取るように分かった。




