探偵と屋根と少女と出逢い4-4
扉が開いて、要は有紗の目が自分を捉えるのを見た。次いで、少女を捉えるのも見た。
その次の瞬間だ、要の頬に平手打ちが飛んできたのは。目にも留まらぬ早業だった。
最初、要は自分が誰に何をされたのか全く分からなかった。
口の中に血の味が広がって耳鳴りが止んだ頃には、自分は有紗に殴られたのだと分かっていたが、その時には既に有紗の姿は目の前にはなかった。〈夏目軒〉の奥に引っ込んでしまっていたのだ。
追いかけて夏目軒へと入った要は、家主である有紗の両親に事情を説明をした。
家主夫妻は――信じてもらえたかはさておき――話を聞いてくれ。
が、有紗は駄目だった。
どれだけ事情を話そうとしても出てきてくれなかった。
だから、結局要は、有紗には説明できぬままこの場に来たのだった。
しかし、葵はそんな事情を全く知らない。知る由もない。
事務所に起こったことも、少女のことも全く知らない。
だから、要が責められる。
「また何かしたんでしょう、要君は無神経ですからね」
「……そりゃ無いっスよ、葵さん」
確かに葵の言う通り、これまでにも要は何度か有紗の怒りを買ったことがあった。
しかし今回は。今回だけは自分のせいじゃない、と要は言いたかった。
殴られた理由を要はしっかりと理解している。申し訳ないという気持ちも、ちゃんとある。
――確かに、あそこまで壊されたら怒るのも仕方ねえけどよ。
でも、話くらい聞いてくれたっていいじゃないかとも思う訳だ。
言ったところで恐らく信じてもらえないだろうが。
『このがきんちょが空から降ってきて天井と家具を穴を壊しました、俺は無罪です』なんて主張を、誰が信じてくれるというのだ。
現実の冷たさを思い、要はふてくされた。
その様子に笑いながら、葵は片手に持っていた紙コップのコーヒーを一口飲み、
「それで、用件はなんですか? 彼女の自慢だったら結構ですよ」
葵の目は少女に向けられている。
何か勘違いされては困る、と要は慌てて、
「いえ、警察でこいつの家族を捜して欲しいんです」
「……そういう仕事があなたの収入源では?」
「ぐっ……」
もっともな言葉である。




