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探偵と屋根と少女と出逢い4-1

事務所を出てから数十分後。要と少女は、建物を見上げていた。

桐山市の丁度中心にあるこの建物こそ、桐山市警察署である。

周囲をビルと道路で囲まれている桐山市警察署は煉瓦造りの三階建てで、かつて使用されていた施設をそのまま市警としたとかつて要は聞かされた。なるほど確かに、壁面には蔦などが絡み放題でいかにも月日を耐えた建物といった風だ。

「おい、行くぞ」

要は、隣でぼうっと建物を見上げている少女を促して、その警察署の中に入った。

途端に、景色は一変した。

一気に三十年くらい時を超えたかのようだ。署内には近代的な眺めが広がっていた。

壁には大きな液晶パネル。床や壁には黒子程度の汚れも見当たらない。壁際には何人かが座っている長椅子があって、その向こうには受付が幾つかあって、さらにその奥では制服の警官達が忙しそうに働いている。

要は空いている受付を選んで話しかけた。

「あの、すいません」

「はい何かご用で……あら?」

声を掛けられた白髪交じりのおばさんは、手元から目を上げて、要の顔を認めるとにこりと笑った。

「要君じゃない、どうしたの?」

顔見知りだ。

好都合だ、と要は思った。これならさっさと通しててもらえそうだ、とも思った。

だから要は、ソフト帽を脱いで最低限失礼にならない程度に頭を下げると、用件を伝えようとした。

「すんません、あの――」

しかし、伝え終わる前に、おばちゃんが口を開いた。

「あれ……その子は?」

おばちゃんの目は要の傍らを通って、少女を見ている。

要は素直に答えた。

「分かりません」

「分からない? それって……」

一転、おばちゃんの視線に疑いが混じる。それを感じ取った要は、慌てて語を付け足した。

「それを聞きにここに来たんです」

「……ああ、成程ね」

どうやら理解してくれたようだ。要はほっと胸をなで下ろした。

それからおばちゃんは、手元の内線電話の受話器を取ると、ダイヤルに指を置き、要に訊ねた。

「葵ちゃんでいい? それとも――」

「高坂さんでお願いします」

おばちゃんが言い終わる前に、要は答えた。

その声音は先程までとは違い、幾らか頑なで、幾らか冷たかった。

「……はいはい」

何かを悟ったようにひとつ大袈裟なため息を吐くと、おばちゃんはダイヤルを押した。


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