探偵と屋根と少女と出逢い3-1
「……は?」
要の口から出たのは、先程と負けず劣らずの間抜けな声だった。
本気で言っているのか、と顔を見るが、相変わらずの無表情。ただ
既に事態は理解の範疇を超えていたのに、ここに至ってさらに酷くなった。本気で言っているのだとすれば、抗議する言葉もない。
天井をぶち破って何かが降ってきて。その何かを見たら、それはそれは綺麗な少女で。おまけに、「側に置いてくれ」という。
その説明で「ああそうですか」と納得できる人がいるかどうか調べてみたいくらいだ。
冗談にも程がある。笑えやしない。
見れば、布の裾から出ている裸足の白い足は、骨と見紛うほどに細かった。足がこれだから腕の方も推して知るべし、だ。
だというのに、この箸より重い物を持ったことがなさそうな華奢な少女は、真顔でほざいているのだ。「貴方を守るため」などと。
この部屋を惨状にした張本人が何を言うのやら。
――そんな笑えない冗談のために、こいつは俺の事務所をぐちゃぐちゃにしたのか。
家具に天井に。衝撃から立ち直ったその時から要は、直すために必要な金額を頭の中で見積もっていた。
その結果として出てきた金額は、要の食費一年分より多かった。更に言えば、それはアクアで試算という奴で、往往にして実際はもっと掛かることが多い。
一体どのくらい食事を抜けば払いきれるのか、今のところ見当がつかない。
現状を考えれば考えるほど、要の中に少女に対する怒りが込み上げていく。息を呑むほど美しい容姿も、その周囲に惨状が広がっているのでは台無しだ。おまけに、これだけのことをしておいて済まし顔である。
我慢の限界だった。
相手が少女だろうが知ったことじゃない。ひとこと文句でも言わなければ気が済まなかった。
我を忘れるほどの激しい怒りに駆られて、要は一歩踏み出した。
そして、少女の胸ぐらを掴もうと右手を伸ばし──
気が付くと、床に寝そべっていた。
天井の穴から青い空が見えた。