探偵と屋根と少女と出逢い2-9
でも印象的なのは目だ。
黒くて鋭くて、けれども澄んでいて美しい。
まるで刃のような目だ――と見とれていたのも一瞬のこと、要はすぐに我に返った。
違う、そんなことをしている場合じゃない。
問い詰めるんだ、いったい何の恨みがあって俺の事務所に落っこちて来たかを。
先程の自分を頭の中から追い出し、仕切り直しのつもりで咳払いをひとつして。
だが、先に口を開いたのは少女の方だった。
「あなたが幅木要ですね」
天井をぶち破って参上した見知らぬ少女が、自分の名前を口にした。これほど驚くことがあるあろうか。
予想だにしていなかった先制攻撃に、要は口から「え?」という間抜けな声を漏らすことしか出来ない。
少女は無表情のまま続けて言う。
「幅木要、職業は探偵。桐山市三丁目の三十七番地の定食屋、〈夏目軒〉の二階にて幅木探偵事務所を開業中――」
出身校に身長体重。病歴や、生い立ちまでつらつらと。少女の口からよどみなく流れ出た。
要はそれを、呆気にとられながら聞いていた。出る情報出る情報全てが当たっていたからだ。職業や事務所の場所位なら分かっても不思議ではない。けれどそれ以降を調べるのは難しい。ましてや全て正確に、となると。
同じ情報を扱う仕事だからこそ、その凄さが身に染みて分かった。
だが、同時に疑問も深まった。
――この少女はいったい何者なのか。いったい何故、こんな事が出来るのか。
そして一体何故こんなことを仕出かしたのか。
しかし、その答えはすぐに分かった。少女自身がそれを口にしたのだ。
無表情のまま、少女は、ゆっくりと右手を上げ。
半ば怯えながら自分を見る要を、黒い瞳で真っ直ぐに眺めながら、その人差し指を突き付けて、言い放った。
「幅木要、私を貴方の側に置いて下さい」