探偵と屋根と少女と出逢い2-8
「……」
ポンチョと襤褸切れの中間のような服を纏っているその少女は、片膝立ちの姿勢で両断されたテーブルの上に座ったまま、微動だにしない。生きているかも分からないほどだ。
短い髪はカラスの濡れ羽のように黒々としていた。身長は恐らく百五十センチくらいだろう。要の胸辺りに頭が来るはずだ。膝に顔をうずめているため、顔立ちは分からない。
――は? おいおいおい、どういうことだよ。
それを見た要の混乱の度合いは、更に増した。それはそうだろう、冷静な方がおかしい。ついさっきまで何ともなかった部屋が、二秒後には天井をぶち破って降ってきた女の子のせいでぐしゃぐしゃになってしまったのだから。
けれど、このまま右往左往していてはではどうしようもない。
とりあえず、話しかけてみようと思った。見た所では普通の少女だ、通じるかはともかくとして、反応くらい見せるだろうと。
万が一の場合にはいつでも逃げだせるように腰を落として、恐る恐る歩み寄る。
近づいたことで、少女の両肩が微かに上下しているのが分かった。
やはり、生きている。そう思うと気は楽になった。
そうして要は、かなりの距離まで近づいた。手を伸ばせば触れることの出来るくらいに。
「……」
それでも、少女は顔を上げない。
要は立ち止る。
何か嫌な予感がした。ここまで近づいているのに微動だにしないとは。何か、企んでいるのではなかろうか。
けれども、じゃあそのまま触れず無視したままでいられるかと問われれば、答えは否だ。このままでは仕事に関わる。
結局他にどうしようもないことを改めて理解した要は、ゆっくりと少女の肩へと手を伸ばした。
と、その手が触れるか触れないかという辺りまで近づいたところで、
「……ん」
少女が、いきなり顔を上げた。
目が合って、要は息を呑んだ。
その顔の造作があまりに美しかったからだ。まるで人が意図的に作ったかのようだ。