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第四話「盗賊」

風を切るように僕達は西の森に向かっていた。

今僕はあの鳥の顔をした馬に乗せて貰っているのだが、近くで見ると迫力が凄まじく、まさにグリフォンの様な鋭い顔をしていた。グリフィと言うらしい。


「あの森ですか?」

「そうだ、あの森の中に小屋が有るんだが多分其処だろう」


険しく森を睨む老人、デルタさんの表情はグリフィとそっくりだった。

デルタさんの孫娘はまだ16歳で、元気のいい少し勝ち気な女の子でとても可愛らしいのだとか。

一人しかいないお孫さんだという。相当のお爺ちゃん補正が掛かっているだろうが……まぁ、どんな見た目でも助けるけどっ。


股の傷みと闘いながら西に森へと近付いていった。


森に着いた頃には日は傾いていて、空はオレンジ色だった。

デルタさんの話では、この森に魔物は居ないらしい。


森を進みながらふと、魔物の事があのパンフレットに書いてあった事を思いだし、念じて取り出した。

夕陽に照らされたページを見ると、あまり詳しくは書いてなかったが、魔法が使える動物を魔物と言うらしい。

直ぐにしまってデルタさんを追う。

確かに変な生き物は沢山いたが、危険性は無さそうだった。


「……ここだ」


足を止めたデルタさんが見つけたのはそこそこの大きさの小屋だった。

あれじゃあ入った瞬間直ぐに見付かってしまうじゃないかとエルは頭を捻る。作戦を考えようにもこういうのは初めてだし今更自信が無くなってしまう。


登場人物になろうと、意気込んだそれはやはり間違いだったんじゃないかと。


(く、どうすれば……あれは、グリフィ?)


小屋の横に紐で繋がれたグリフィを見付ける。

あれを逃がせばあいつらは足を失う、その後娘さんを担いで一気に……なんて無理だよなぁ。

日はどんどん沈ん夜になるのに時間は掛からなかった。


「どうする?」


静かに言ったオルドさんの声は、今にも助けに行きたいという気持ちが籠っていたが…………。


「取り合えず窓から覗いてみましょう」


物語の主人公の様に直ぐに解決策は出なかった。




盗賊団グリフィ。

そう名付けたのは随分昔の様に感じた。

最初は金のない野郎の集まりでスリをしたりするだけだったが、歳を重ね力と経験を蓄えていった俺達四人はとうとう村を襲った。

と言っても、弱そうな婆さんの住んでいる家ばかりを狙った小心者の集団なのだが。


「おい娘、どうしてこの場所が分かったんだ」


リーダーである俺がついさっき捕まえた小娘に尋問する。

居場所がばれるのは不味い。それは盗賊として最低限の心構えだ。


「リーダー、さっさとやりましょうよ。うひひ」


俺を含めたメンバー四人で、まだ若い所為か性欲が強い。捕らえた少女も可愛らしく、健康的な太ももにはそそるものがある。


「そ、そういうのは夜になったらな」


まだそういった行為を行った事がない俺は、かじった知識の中から夜にやるものだと導きだし抑制した。

他の二人も少し期待した顔で少女を見ている。少女はそういった視線が分かるのか眉間に皺を寄せ睨みを効かせている。それでも可愛いのだが。

俺達の青春時代は生きる事に必死だった為、女っ気はまったく無かったのだ。


「もうすぐ日が暮れる、飯にしよう」




窓から中を覗くと、細身の男が四人いる事が分かり、デルタさんの孫娘は椅子に座らされて縛られていて顔を伏せていた。

食事を摂った後なのかいい匂いが僕の空腹を刺激する。あぁ、お腹減ったなぁ。

家では待っていれば母がご飯を作ってくれたが、この世界にはいない。


「アルカッ!」


小さな声で叫ぶデルタさんは、それ以上何も言わなくて低く唸った。

そのまま観察していると、男達が動き出した。


(まて、なんだその顔は。まさかいやらしい事するんじゃないだろうな。はっ、聴こえた。やるって。くそ、僕も混ざりたい)


ぐぎぎと歯をくいしばって窓から覗いていたが、隣にいたはずのデルタさんが居なくなったのに気が付いた。

窓から直線上にある玄関の扉が開かれた。デルタさんだ。


「私の孫を返して貰おうかッ!」


そうだ、ファイトだデルタさん!

小屋を震わすその声に気が付いた四人の盗賊は、緩んだ顔を引き締めた。

各々武器を掴みデルタさんと対峙する。だが、なかなか動き出さない。その現状に手汗がしっとりと気持ち悪い。


その状況をじっと見ていたが、ふと客観的になって今がチャンスだという事に気が付いた。

窓をそっと開けて中に入る。大きめの窓はなんなく身体を通すことが出来き、今日は少し暑かった所為か、窓が空いていたのも運が良かった。


机の上に無造作に放置されたナイフを手に取り、音を立てずにアルカに近付いた。


『縄をほどいても静かにしててね』


頷くのを確認せず、さっさと縄を切断する。

とにかくここから早く出たかったのだ。


「お爺ちゃん!」

「お、おい馬鹿、バレるじゃん」


頭を抱える僕を余所に、身体が自由になったアルカは大声でデルタさんを呼んだ。


「縄を切ってくれたのは礼を言うけど、あんたに助けを頼んだ覚えはないわ」

「あぁん…………そっすか」


その台詞で一気に気落ちした僕はそのまま帰ろうとする。


「ああっ、待って!あのね、助けを頼んだ覚えがないのに助けて貰って嬉しいの。ありがとっ」

「あ~ん、そっすかぁ♪」


すっかり気を取り戻した僕は、盗賊に向き合った。

おらぁ、やったるぜ。


「けっ、ガキが一人増えたぐらいで何が出来る。やっちまえ!」


男の声と共に盗賊が動き出す。

やる気の僕は、向かってきた一人にアルカが座っていた椅子をぶん投げて、飛び掛かった。


「ひょろい、ひょろい、栄養が足りてないんじゃないのか。おらぁ」


椅子がぶつかって簡単に倒れた盗賊に飛び乗って、意識を沈めた。


「おぉ、僕つぇー……へぶっ!?」


一人倒した達成感に浸っていたら、アルカの方に行ってたと思った盗賊が蹴りを入れてきた。

脇腹にモロにくらい、傷みを我慢できず部屋の隅まで転がった。


「へっ……」


ドヤ顔の盗賊に一発決めたい所だけど、蹴られた所が痛すぎて動けない。

よく主人公は血が出ても闘うよな……。そう思いながら脇腹を手で押さえる。

動かなくなった僕を戦力外だと思ったのか、再びアルカに向く盗賊。


「はぁ、はぁ、情けねぇな僕…………てか、もっと手加減して蹴ってよ。骨折れてるかも」


泣き言を言いながら、上半身だけ起こす。

あぁ、アルカがつかまってら……。デルタさんも、もうボロボロじゃないか。


くそ、僕が漫画の主人公みたいに強かったら、倒れても立ち上がる意志があったら。


――僕に、魔法が使えたら。


目を閉じ、力のない自分に悔しく思い、強く力を欲した。


その瞬間。


瞼に覆われた視界に光が走った。

驚いて目を開けると、盗賊の盗んだ物だろうか、ゴチャゴチャに積み上げられた山の中に光輝く物が見えた。


「何だ!?」


盗賊も驚いていたが、僕は盗賊より早くそこに走った。

盗賊の手をギリギリでよけ、飛び込む。

腕に食い込んだ貴金属なんて気にせずに、山を崩す。


「――――これはッ!」


魔法石。


あの本に書いてあった事を思い出す。

魔法は一人一人違う……。

魔法書を読んだ者にのみ……。

魔法石を手にすること……。


そして、これは多分オル婆が盗まれた魔法石!


「借りるよオル婆!」


思い切り掴み取ると輝きが増した。

掴んでいた手の甲に熱を帯び身体を螺旋するように水色の閃光が走る。

残光を含めた全ての光が一瞬で身体に吸収された。


――貴方は、流れ行く者。


脳に響く声に妙に納得がいき、続く“流れる物を想像しなさい”という言葉も素直に信じられた。

僕は子供の頃に一度だけ行った“川”をイメージする。


「これは…………水が流れ出てくる」


手の平から湧き出る水により、自分の魔法を核心した僕は手を握り力を強めた。


「ひぃ、魔法使いだったのか!!!」


盗賊は逃げるように玄関に散っていく。

倒れたおデルタさんと捕まっていたアルカ、蹴られた僕。


「逃がすかよッ!」


湧き出る怒りを水に変え、勢いよく盗賊に放出した。

ハイドロポ○プッ!

そう叫びたかったのは内緒だ。


激流によって飛ばされた盗賊は木にぶつかるまで止まらなかった。


「お爺ちゃん!」


この後デルタさんがこいつらをこの世界の警察的な組織に引き渡したのだが、それは置いておこう。


だって、この笑顔の再開で終わらせたいからさ。




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