第二話「ルール」
作風思案中。
ころころ書き方が変わるかもしれません。
元の世界に戻る方法。
それは以下の条件を満たし、尚且つこの世界のSS級の魔物を倒した場合に送還様の転移魔法が作動する。
条件①この世界の住人と会話をする。
条件②この世界の食事を取る。
条件③魔法を習得する
条件④スキルを習得する
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と、沢山の条件がパンフレットのページ一杯に書かれていた。
パンフレットはいつの間にか中身が変わっていて、そのような内容の事が書かれていた。
これを無くすと帰れないんじゃないかと思ったら、異世界よろしく別空間に出し入れ可能と※印で書いてあった。
観文の意識が戻ったときにはもうバスの中ではなく、周りに他の10人の姿も無かった。
立ち上がり辺りを見渡すと、草原が続いているのが分かった。生物は確認できない。
近くに村のような場所も見えて、取り合えずそこに行くことに決めた。
そこそこな都会で育った観文にとって、この草原はなんというか空気が美味しく感じた。
澄みきった空は手を伸ばしたくなるし、風でさらさら揺れる雑草は寝転がりたくなる。
その衝動に抑えが効かなくなった観文は足を止めうつ伏せで横になった。
「これが異世界の土の匂いかぁ……ぐへへぇ」
雑草の間から除く土の匂いをクンカクンカする観文の姿は情けなかったが、順能力が高いというか何というか。
暫く異世界の情景観察をしていると、地面を何かが走る様な音がした。
「鳥の顔の馬?さすが異世界だな」
変な馬を見て感心していた観文だが、乗馬している妙齢の男の必死な顔を見て、何か事件でもあったのかと推察した。
(何かあったのかな。ま、僕が解決できる問題じゃないだろうけど)
馬が走っていった方向が村の方だったので、観文も歩きだした。
だが、視線は村ではなくパンフレットの条件:異世界の事件解決という項目だった。
リリット村
虹のようにカーブしたゲージに書いてある文字を無意識に読み上げる。
「てか異世界語読めてる!?マジで、いや日本語?これはサービスなのか。そうなのか」
文字は全然違うのに読めるのは何か補正が働いているのだろうか。
はて、と首を傾けながら村に入った。
国に入る事は入国と言うけれど、村に入る事はにゅうそんとでも言うのだろうか、ふふ。
何時も通りの緩い頭を確認しつつ、村を探索する。
家は木造で特に違和感無し、うーん、人が同じだと結構変わらないものなのかな。
…………
て言うか、何となくで入っちゃっったけど僕お金ないし、何したらいいのかもよくわかんない。
物語の主人公ならどうするのかな。
イケメンなら可愛い女の子の家になんやかんやでにゃんにゃんするだろうし、チート的な能力貰ったら、なんか敵が勝手に出てきて、ぶっ飛ばして客扱いかな?
(あぁ……僕にはできねぇや)
村から見上げた空はとても綺麗でした。
冗談は置いといて、本当にどうにかしなくては。
歩き続けていると少し拓けた……広場だろうか、数十名が集まって何やらがやついている。
先程の老人も居るようだ。
「誰か、誰か治癒薬草を持っている御方は居ないだろうか。息子が病気を患ってしまい、私の村では、治せない……」
その台詞を聞いて、同情の目は増えたが薬草を持っている人はいないのか、名乗り出る者はいなかった。
「治癒薬草なんてなぁ……」
「ああ、高くてそんなん王都にしかねぇべ」
「そんな……」老人の悲痛な声を皮切りに、周囲の人だかりも減っていった。
「可哀想に……でも僕だって今ヤバイ状況だから同情はできないな。家、探そう」
こうして二つの哀愁を帯びた背中が広場から遠ざかっていった。
ハーブの匂いが家から流れ、その後を追いかけるチキンの香ばしい香りが弾けば、僕のすっからかんなお腹も空腹を訴える。
あれから数件恥を忍んで泊めて貰えるよう頼んだのだが、全ての返答はNOだった。
「はぁ、家に帰りたい。大体異世界つったって三次元じゃ楽しめないじゃないっ。現実は現実世界より厳しい。あれ、今格好いい事言った?」
空回りするテンションに身を任せ、僕は山の方に向かってると知りながらも足を止めなかった。
何故ならば、お願いした民家の人にその人なら泊めてくれるかもしれないと、情報を貰ったからだ。
「これで、泊めて、貰えなかったら、馬小屋で寝てやるぅぅぅ」
登り坂を、文句を言いながら登っていく。
すると、木々の間から小さなウッドハウスか顔を出した。
「ひぃぃ、着いたぁ。現代っ子舐めんなよ。ふへ
へ」
「誰だい?」
「ひぃぃ!?じゃないや。あ、あの、ここに暫く泊めて貰えませんか?」
庭の畑に水を撒いている老婆に声を掛ける。
だが、なかなか返事は無かった。
「あ、あの……」
「帰んな坊や、家には何にもありゃしないよ」
「それでもいいでーすっ、泊めてくださーい、もうここ以外行き場が無いんですぅ。身一つで投げ出されて、僕こそ何にも無いんですぅぅぅうっうぇぇ」
もう後がない事と、今の理不尽な状況から塞き止めていた涙腺が崩壊した。
僕が泣き止むと、老婆は静かに僕を迎えてくた。
「入んな」
その言葉に再び涙腺が緩んだが、裾で無理矢理擦り笑顔を作って家に入った。
「お前さんは誰なんだい、見たところまだ成人してないじゃろうが……」
「僕は藤本…………」
この世界でも僕は、自分の名前を語るのか。
向こうの世界では、毎日目標もなく生きていた駄目な登場人物の名前を。
こっちで僕を知る人はいない。
なら違う名前でも良いじゃないか、こっちの世界の登場人物に成る為の名前。
――村人A。
ふと過ったその名前。僕には丁度良いかな。
それを僕は文字って言った。
「エイ・ムラビ……です」
自分で考えた名前は羞恥心を煽ったが、さっき羞恥心は捨ててきた。大丈夫。
「エイ……ねぇ、聞いたこたぁないね。あたしゃオルガンド・ラスティ。別に名前で呼ぶ必要はないよ」
「うん、分かったよオル婆!」
ふんと鼻で笑った後、奥からぐつぐつと音を出した鍋を抱えてきた。
「食うだろ、エイ坊。くっくっく」
「うん!」
そこには、反抗的だった昔の僕は居なくて、素直なこの世界のエイ・ムラビがいたのだった。
「このシチューの肉うっめぇよ婆ちゃん!」
「蛙鳥の肉じゃ」
「…………ぇ?」