プロローグ4(源 遥視点)
遥「お世辞はいらないから、代わりにもう少し『採算』という日本語を勉強してくれると助かるか」
美海の言葉に、私はいつもの辛口で応えた。
美海がお世辞を言っているとは思わないが、この研究所には、寝ても覚めても研究しか頭にない、研究バカが多過ぎる。
美海「遥…。 言いたい事は分かるけど、フェイズ6までをテストに組み込むのは、遥も承知のはずよね?」
遥「承知はしたさ。 承知しないで、先々月みたいに泣かれたら、こっちが恥ずかしいからな」
念を押す美海を、私はあっさりなで斬りにする。
『この研究所の』トップだけあって、彼女は期待に違わず、研究バカの大ボスだった。 その発想がなければ、今の研究所は… いや、研究自体が存在しないのだから、一概に悪い事ではない。
けれど、研究を進める事ばかりに熱心で、それ以外は何も見えていないんじゃないかと言いたくなる時は多い。
今でこそ研究は、ゲーム業界を中心に注目を集め始めていたが、採算が取れそうなのは、研究所で言うところのフェイズ4まで。 将来的な投資と考えても、フェイズ5が限界だった。
私が根負けしてテストに加えたフェイズ6以上のプログラムは、不必要に高性能で、おまけに使用者を選ぶ。 開発したはいいが、肝心の使い道すら決まっていないのだ。
これなどは、どう贔屓目に見ても、研究バカが自己満足だけで作り出したシロモノとしか言い様があるまい。
遥「…とにかく」
所員「失礼します。 所長、副所長。 テスト参加希望者への挨拶をお願いします。 最低限の説明は、こちらでさせていただきましたが、それでよろしかったでしょうか?」
美海「いいわ。 ありがとう」
所員にそう告げられ、私の小言の時間は終わった。
時計を見てみると、もう9時半だった。 テスト参加希望者の集合は9時だったはずだから、説明会がもう始まっていてもおかしくない。
美海「遥、行くわよ。 このテストがうまくいけば…」
遥「『うまくいけば一儲け』ではなくって、『うまくいかなければ全員失業』だろう?」
私はもう1つ大きな釘をさした。 彼女は苦笑している。
遥「何より今日こそは、時代の最先端を行く研究所の所長らしい挨拶を期待します」
私は、口調を元に戻して言った…。