第31話 Exchange Love βリバース ~愛と性の狭間で~(伊織視点)
伊織「泣きながら女を抱くヤツがいるか…」
俺は、ついそう言っていた。
今の俺の身体は祐希の物だから、俺を抱く事を『女を抱く』と表現しても間違いじゃない。
だが、考えて言った言葉という訳でもない。 何となく雰囲気に流されて、そう言ってしまったと言うのが正しい。
遥「かもな」
そう言って遥は3回目の口づけを要求し、俺は抵抗しなかった。
遥「恩に着る。 つまらない意地で迷惑をかけていると、自分でも思うよ」
伊織「迷惑と思うなら止めてくれ。
だが、どうせ抑えきれないんだろう? なら最初から、遠慮なんて口にしなくていい」
抱き合う身体に、少しの違和感と、適度な圧迫感を感じる。 遥の胸が大きいせいか、抱き合うとこの身体の胸とぶつかり、クッションになるのだ。
遥「…ふぅ… ふぅ…」
遥の息遣いは荒くなってきていた。
遥「触ってもいいか?」
伊織「ここまで抱き合っておいて、今更許可を求めるなよ。 だいたい、触って欲しいのが本音じゃないのか?」
俺は流れを変えると、逆に胸から腹、太ももへと手を滑らせた。
そうしたのは、主導権を握りたかったのか? それとも、まだ胸より下に遥の手が伸びることを許せなかったからなのか?
遥「…わ、若くても、経験は豊富なのだな?」
遥はそんな事を言った。
伊織「他人を勝手にイヤらしい人間にするな。 遥が感じすぎなだけだろう? まだ、服も脱いでないんだぞ?」
遥「それ以上してしまうと、私という人格が崩壊してしまいそうな気がしてな…。 まだ正直、迷っている」
遥は、らしくなく目を伏せた。
伊織「遥が感じるだけなら、俺としては問題はない。 それ以上は… なんだ…」
迷っているのは、俺も同じなのか? 自問自答したが、答えは出るはずもない。
だから言葉を繋ぐより、手を動かした。
遥「ひっ… あぁん… いぃ」
遥は何回もも喘ぎ、鼻から抜けるような声を出す。
当たり前だが、普段のコイツとは違いすぎる。 『これだけの欲情を、俺なら抑える事ができるか?』ふと、そんな疑問が浮かんだ。
遥「他人の感じる顔がそんなに面白いか? だとしたら、君はそうとう嫌なヤツか、さもなければ…」
遥の手が、不意に俺の下半身に伸びた。 振り払いたい衝動に駆られたが、耐えた。
遥「堅いな。 やはりその頑なさ、君も祐希が好きなんだな?」
伊織「…っ!!」
俺は表情が強ばるのを隠せなかった。
遥「やはりか。 だから、祐希が好きな私の気持ちに同情して拒否はしないが、自らは感じようとしない。
それは、その身体を使う事への遠慮か? それとも、祐希以外の人間と交わりたくないのか?」
核心を突かれ、奪ったつもりだった主導権をあっさり奪い返される。
俺は遥の目を見据えていられなくなり、目線を逸らした。
遥「純情なのかな…。
無駄とは思うが、1つ提案しておこう。 女の身体の快楽を知っておく事は、現実世界での大きな知識になると思うぞ? とかくこの手の知識は軽んじられるが、それですれ違う男女は、意外に多いのだ…」
遥の手が、俺のショーパンのファスナーの上から、股の間までを、ゆっくりと行き来した。 男の身体だったなら、とうに見境などなくなっているところだ。
遥「それと君が望むならば、現実世界で妥協する用意もある。 架空世界で私を満たしてくれた分、現実世界では私が君に奉仕しようではないか」
甘い誘い。
それは俺の理性を大きく揺さぶり、つい遥の指を受け入れそうになった。
遥「それにな。 嘘をつくのは悪い事ではない。 まして君は今、人助けをしているんだ。
同性愛の私に、こうまでしてくれる男がいるなんて、正直信じられない。
意地悪なようで申し訳ないが、私はどうあっても、君と共に頂上へ上り詰めたくなった。 さあ…」
遥の目が、鈍く光る。 そして執拗にこの身体の秘部を撫でた。
さらには背中に手を回し、頬に吐息を感じさせ、胸すらも指で刺激する。
遥「無理をするな。 いくら女の身体に入っているとは言っても、所詮はデータが作り出した幻だ。 君の頭脳は、確実に男として、女の裸体を抱けと命じているはずだ!」
遥は自ら、全ての衣服を脱ぎ捨てていた。
伊織「…うっ。 くっ…」
…残念だが、遥の言葉に間違いはなかった。
と言うより、すでに何が何だか分からなくなり始めていた。
遥「もう一度言う。 無理をする必要はないと思うぞ? 君はまだ祐希と付き合っている訳ではないのだから、これは浮気ではない」
遥の手が背筋から脇腹へ動き、それから腰のくびれを撫でた。
遥「そしてこの身体は、祐希に似せた、ただのデータだ。
作った私が言うのだから間違いない。 よく見れば、顎のなりが少しだけ鋭角だ。 それから、手も小さくしすぎた…。 他にも…」
そう前置きした遥の手が、一気に中心部分に伸びる。
遥「見せて貰えるはずもない所は、まったくの想像で作った。 こんな物、似ている所の方が少ないくらいだ。
だから…」
遥「だから、私と1つになろう?」
遥の右手がベルトに、左手が背中のホックに触ったのが分かった。
そして遥は、目だけで俺に回答を迫る。
伊織「………。」
遥「…………。」
複雑に絡み合う視線。
遥「ファイナルアンサー?」
遥が静かに告げる。
伊織「ファイナル…アンサー…」
俺は、目線での会話の全てを肯定した…。