表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Exchange Love  作者: まひ姉
33/36

第29話 Exchange Love β ~愛と性の狭間で~(遥視点)

伊織「随分と強引なお誘いだな? 何か思惑があるのか?」


ほう。 やはり、大人しくついて来ただけではないようだな?



遥「どうしてもこの組み合わせにしたかった事は確かだ。 それに対しては詫びよう。 だが…」


私は、手にしたグラスのワインの香りを、少し楽しんでから飲み干した。



遥「だが、後悔はさせない自信はある」


まっすぐ伊織を見つめた。


そこにあるのは祐希の幻だが、入れ替わるのが慣れてきたせいか、言葉遣い以外、大きな違いは見つけられない。 仕草、立ち振舞いまでもがどこか女らしいのだ。





遥「この際だ、はっきり言おう。 私と寝てくれ」



伊織「………。」



何も言おうとしない。 だが、それは何を意味するのか?




遥「祐希に悪いと思っているなら、それは間違った認識だ。


この世界は所詮虚構。 ログアウトすれば、全てはなかった事になる。 記憶は残るが、それとて私と君が話さなければ、永遠に闇の中だ」



伊織「知ってるさ。 だが『何故この世界で』なんだ?」


伊織の問いは当然だった。 私がもし伊織に恋しているなら、現実世界で告白すればいいだけなのだから。





遥「それに答える前に、君について、1つだけ訊いておかなければならない。 君は女が好きか?」


私は伊織の目を見据えた。



伊織「啓介なんかは『女をとっかえひっかえ遊びたい』なんて言ったりもしているが…」


言葉はそんな内容でも、口調は厳しい。 私の真意を察しているのかも知れない。




遥「その女の意味ではない。 『君の恋愛対象は女性か?』と訊いているんだ」


私は、ついに越えてはいけない一線を越えようとしていた。





伊織「俺は… そうだな。 しかし、こんな事をわざわざ言うからには、お前は」



遥「君の想像は正しい。 私はいわゆる同性愛者だ。 そして


『私が恋したのは、祐希であって君ではない』


だから今、この世界で私と寝てくれと頼んだ」



言ってはいけない事を言ってしまっている自覚はあった。


だが、私とて限界はある。 むしろ我慢とは、あまり縁がない方なのだ。




伊織「まさか身代わりをしろと?」


伊織は、不快感を露にしたように見えた。



遥「悪い取引ではないはずだ。 この機器には、性的な快感もプログラミングしてある。


私は女だから男性の快感には疎いが、女性のソレを忠実に再現できた自信がある。


そしてそれは、祐希の身体に収まっている君にも当て嵌まる。 女としての快感を得る事ができるんだ」




伊織「そんな事は聞いていない! 俺が言いたいのは、祐希が好きなら好きで、なんで本人に言わないのかって事だ!!」


怒りが高じたのか、ソファーから立ち上がる伊織だったが、私は座ったままグラスを煽った。







遥「君は若いな。 愛は美しい物だと、無条件に信じている目だ」


伊織「何が言いたい」


伊織はまだ私を睨めつけている。





遥「仮に私が祐希に想いを告げて、一体何になる? それは互いに悲劇しか生まない」



伊織「…………。」



遥「祐希の過去に何があったか、察しはついている。 だがそんな経験があっても、祐希が好きなのは異性である男だ。 そこに同性である私が愛を告げて、先はあるのか?」


私は、グラスを再度煽る。



遥「先がないだけなら、まだいい。 求めていない愛情は、相手にとって重荷になる。


受ければ望まない恋を強要され、断れば断った事に負い目を感じる。 そこまで解っていて、なおも行動に移すのは罪でしかない」



私が、これでもかと言うくらいはっきりと言い切ると、伊織の顔から怒りが消えていった。





遥「私も科学者の端くれだから言うが、恋愛対象の性別は、時や相手によって変化する物ではないのだ。


伊織。 君が理想とする完璧な男に逢ったとして、その男に恋をする可能性があると思うか?」




伊織「…ない、だろうな。たぶん」


伊織は数歩後退りすると、近くにあったベッドに腰を落とした。



遥「だから私は、絶対に祐希に想いを告げない。 それが私の信念だからだ。


だが、人間は信念だけで生きていけるほど強くはない。 恋した相手を見れば、胸は高鳴る。 身体は疼くんだ」



そこまで言うと私は立ち上がり、伊織をベッドに押し倒した。 そしてそのまま唇を奪う。


伊織は目を反らしたものの、抵抗らしい抵抗はしなかった。






伊織「1つだけ聞いていいか? それでお前は満足なのか?」


真っ直ぐ見据えられた。 今度は、私が目を反らす番だった。





遥「…私は…。 私は今まで恋を成就させた事がない。 好きになるのは、みな同性ばかり。


初めのうちは、それでも想いを告げていた。 未来の希望を信じられた時期もあったんだよ、私にも」



一旦伊織を解放すると、私は伊織の横に座り直した。




遥「女子校の頃とかな、閉ざされた世界であれば、疑似恋愛で私に付き合ってくれた者もいないではなかったが…。


時が経ち、社会という広い世界に飛び出していくや、私の恋した(ひと)は皆、男と付き合い結婚していったよ。


『私も男を好きになれれば、どんなに気が楽か』と思ったが、無理だったな。


怖いとか嫌いとかじゃないんだ。 私には男がペットの犬や猫のようにしか見えない。 存在価値は認めるし、会話を楽しむくらいはできる。


だが、恋して気持ちが揺らぐ事はない。 私と男では、種族が違うからだ…」



自分で言っていて、胸が痛くなった。 それは、私がまだ希望を捨てきれていない証拠なのか?





伊織「哀れだな」


哀しい声だった。



遥「哀れみなどいらん。 同情からは何も生まれない。


もし私に情けをかけるつもりなら、私を抱け。 せめて肉体だけでも、悦楽の淵へ沈めたいんだ…」



再び唇を重ねた。 目頭が熱くなった…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ