第28話 Exchange Love α ~想い出に抱かれて~(美海視点)
祐希「妙な事になっちゃいましたね?」
祐希ちゃんは呆れたように言ったけれど、私は胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
遥はさもふざけたように言っていた。 でも彼女が、そんな適当な事をするはずがない。
私の感情を知っているが故に、あえて手を回したに違いないのよね…。
美海「そ、そうだね。 でもテストプレイ中なんだし、何かしなきゃね」
部屋を見回しても、ダブルベッドと座っているソファーくらいしかなかった。 注文すれば、テーブルに物のデータが送られてくるようだけれど、食べ物を食べられる気はしない。
祐希「とりあえず飲み直しましょう。 後は、お話でもしてればいいんじゃないんですか?」
事情を知らない祐希ちゃんは、普段の明るい彼女のまま。
美海「そ、そだね」
私はおずおずとグラスに手をつけるが、一気に飲みすぎて、すぐにむせてしまった。
美海「ケホっケホっ 」
祐希「美海さん、大丈夫ですか?」
背中を撫でてくれる手。 それは、あまりにも似すぎていて…。
美海「…う…」
つい、私は想い出してはいけない事を…。
祐希「…美…海…さん?」
私の顔を覗き込み、驚いたような表情をする祐希ちゃん。
祐希「やっぱり、美海さんなんかヘンですよ。 この部屋に…。 いや、エレベーターに乗った時から」
美海「そ、そかな? 酔いが回っただけじゃない?
ほら、雰囲気だけでも酔っちゃう事ってあるし。 それに、いくら中が祐希ちゃんでも、見た目が男の人と2人きりになると…ね?」
私は、そうやってなんとか誤魔化したつもりだった。 だがそれは、私の思わない流れを生み出してしまう。
祐希「男の人ですか。 そう言えば美海さんって、彼氏さんはいないんですか?」
私は、自分の口を呪った。
だけど、祐希ちゃんを責めることはできない。 事情を知らない彼女にとって、彼氏がいるいないなど、ごくごく普通の話題なのだ。
ましてや彼女は、男性恐怖症が治りかけていて、そういった話題に興味が出てきたとしても不思議じゃない。
美海「…もう…。 いない…のかな?」
私の言葉は、凄く歯切れが悪かった。 しかも、言ってはいけない言葉を口走ってしまっていた。
祐希「聞いてもいい話、ですか?」
どうやら祐希ちゃんは、私の事情を察したらしい。 遥が可愛がるだけあって、頭の良い子よね?
美海「話した方が楽になる。 そう言いたい?」
それでも私は、まだ躊躇っていた。
祐希「そんなおこがましい事は言いません。 ただ、辛い気持ちを受けて止めてもらえたら、楽になる事もあるみたいですよ?
あたしも伊織に、そうしてもらった気がします。 だから…」
今度はあたしの番、そう彼女の顔は告げていた。
美海「伊織君がね…。 優しいんだ、彼」
自分で言った言葉に、溢れ出した記憶が重なる。
祐希「…………。」
祐希ちゃんは何も言わないままだった。 だけど、私を見つめる目はすごく優しくて。
その優しさに、私は堪える事ができなくなりそうだった…。