第15話 おもひで(美海視点)
???「… うみ… …み…み…」
???「…美海? み・う・みっ!」
元気に呼びかける声に、私は目を覚ました。
美海「…なんだ、祐司か」
祐司「何だとは失礼だな~」
私は眠い目を擦りながら、彼に言葉を返した。
祐司「今日から、俺達の新生活が始まるんだぜ。 わくわくするだろ?」
彼は、何だか楽しそうだったけれど…。
美海「新生活って、教授とケンカして追い出された事を言ってるのかなぁ~?」
祐司「ぎくっ!」
美海「それとも、研究が頓挫してて、うちのお母さんに…」
祐司「ぎくぎくっ!!
ってか、待て! あのお金は、美海のお母さんが俺達の新生活を祝ってだな…」
美海「そのお金、研究費に使い込んだでしょ」
祐司「バレてたのか…」
そこまで言うと、彼はようやくうなだれた。
美海「当たり前でしょ? 祐司の家、あんまりお金持ちじゃないし。 第一、研究三昧で…」
収入なんか、ないも同然だった。 私がしているアルバイトと、貯金だけが頼りの生活。 大人2人が生活するだけで一杯一杯なのに、研究費用なんてある訳がない。
祐司「美海には、悪い事をしたと思っている!」
そう言って祐司は頭を下げた。 そんな事をしても、何も変わらないのは分かりきっている。
それでも研究を捨てられない。 それが、私の好きになった人間なのだった…。
【2】
祐司が、私と2人で所属していた大学の研究室を飛び出したのは、3ヶ月ほど前のことだった。
研究の先行きについて、『実用化は不可能』として中止しようとする教授と真っ向から対立してしまい、後は言った言わないの水掛け論。
結局、大学を追い出される形になった。
最初は、彼はそれでもなんとかするつもりだったようだけれど、大学教授を敵に回して研究を続けるには、私と祐司は経験も人脈も… 何もかもが足りていなかった。
せめてと貸してくれたのがこのマンション。
ここは、お母さんが管理している物件の1つで、広いけれど、古くて借り手がなかったのよね。
美海「教授に頭を下げる気、ないんだ?」
祐司「………。」
美海「ないんだ?」
私は問いを繰り返した。
祐司「…教授と言わず、誰にだって頭なら下げるさ。 でも、研究を否定する奴だけは別だ」
この研究バカなところが、彼の良さでもあり、悪さでもあった。
美海「お母さん… いや、大学のみんなも呆れてたよ?」
祐司「呆れられても、俺はこの研究は止めない、止められない」
美海「私と研究、どっちが大切って訊いても?」
祐司「…すまない」
彼はそう言って、床に頭を擦りつけるくらい、私に謝り続けた…。