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所詮この世はエゴとパラノの培養基。
誰もが自分の為に生きて死ぬだけだ。
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「──……天国……?」
思わずそう呟いてしまうほど、起き抜けの自分の目に映った景色は美しかった。
「……どこだここ…?」
なぜか花畑で寝転がっている自分に疑問を覚えつつ、地面に肘をついて上半身を起こし上げた。
「…………」
食い入るように辺りを見回しても、ついさっきまで自分がいた場所とは似ても似つかない。
もしかして本当に天国だろうか、と思う。
「ついに死んだか、おれ」
つい自嘲気味になってしまったのは、死にたくないと、今まで必死になって生きていたせいかもしれない。
そう。死にたくなかったのだ。死んだら負けだと思っていた。
それでも、人の考えは変わるもので。今の自分が本当に死んでいるのなら、思っていたより死も悪くないと思えた。あんなゴミみたいな世界で生きなければいけないのなら、美しいこの世界にいた方が幾分も良いと思ったのだろう。
冷たい空気に思考が冴えてくると、徐々に、ここが現世でないだろうことが自分の中で真実味を帯びてきた。現世には、きっともうこんな美しい場所は残っていないだろうから。
夢ではないだろかとも思ったが、腕をつねれば痛みを感じるし、朝のような冷たい空気は、あまりにも確かなもので、ただただ、死後の世界は本当にあるんだな、と感嘆するだけだった。
「……天国って、案外なんもないとこなんだな…」
当然、美しく壮大なこの景色に向かって『何もない』などと言っているわけではない。色とりどりの花から香る匂いは心地良いし、空を映した水色の湖はとても綺麗だと思う。
だが、そうゆうことではないのだ。
「なんもなくて悪かったな」
「──っ!?」
自分でも嫌になるほどに染み付いた条件反射で、振り向きながら腰のホルダーに手を掛けた。だが、そこにはあるはずの銃がなかった。
「!?]
慌てて辺りを確認するも、やはり銃はない。
「案ずるな。お前の銃なら俺の補佐官が持っている」
頭にのしかかるような重い声で、宥めるようにそう言われた。
警戒しながら相手を見上げると、声の主は、珍妙な格好をした金髪金瞳の若い男だった。
鍛えられた自分よりもずっと痩身で、不健康とは感じないが抜けるように色白。いかにも軟弱そうだったが、それでも人に与える威圧感はケタ外れなものがあった。自分への敵意はまるで感じないが、男の左腰に吊るしてある3本の刀を見ると、焦らずにはいられない。背後に立たれたというのに、土を踏む足音も人の気配もしなかったということも、この男への不信感を強めている。
いくらこの状況を飲み込めていないとはいえ、元戦闘員の自分が人の気配を察知できないはずがないのだ。
わけのわからない恐怖に、息を飲む。
そんな自分を滑稽だとでも言うように、男は腕を組み、なんともふてぶてしい態度で見下ろしていた。
いくら丸腰とはいえ、正直、ガタイのいい自分が殴りかかれば男が刀を抜く前に倒せる自信はあった。もし男が不審な動きをしたら、そうしようとも思っていた。
だがそんな気すらも殺いでしまう圧倒的な威圧感。男にはそんなものがあった。
それでも、怯まないと敵意だけは意地でも崩さない。
そんな自分を嘲笑うかのように、男は小指で耳を掻いてみせた。男にとっては、きっと自分など恐れる対象にないのだろう。
相手を威圧しようとしているにもかかわらず、得体の知れないこの男に自分の方が足が竦み、不覚にも立ち上がれないほどの恐怖を抱いてしまった。
「……あんた、何者だ……?」
かろうじて出た声で、そう問う。
ふっ、と男が口許を歪ませた。
「神様。」
はじめまして、ゆんちと申します。拙い小説ですが、あたたかい目で見てやって下さい。