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最悪の二人

作者: 米中毒
掲載日:2026/03/12

目の前にいるのは英雄だ。


青紫の肌。

血に染まった黒いマント。

その背後には、怨霊がまとわりついている。


紫の瞳が、罪人を見下ろしていた。


「若いのに残念ねぇ。

墓地を荒らしちゃ、ダメでしょう?」


どこで間違えたのか。


俺はへたり込んだまま地面を握り締めた。


「私の仕事は基本、

暴れる死者を弔う事だけど………。」


彼女は辺りを見渡す。

ここが何処かは俺が一番分かっていた。


「聖職者の集団墓地。


それも神話の時代からの墓地に入られたら、懲らしめないとでしょう?」


本能で分かる。

彼女には絶対に勝てない。


だが、俺は間違っていない。

やり方が悪かっただけだ。


俺は正しい。


「同じ神を信じてるはずなのに対立するって、

人間って愚かだわ~。」


追手は全員殺した。


だが、最後に現れたのが――

こいつだ。

こいつだけ何とかすれば……!


「…………ここに何が眠っているか分かるか。」


長考の後、俺は血の味しかしない口を開いた。


「私が何年、世界のために尽くしてきたか知ってる?


それぐらい知っているわよ。」


いかにも退屈そうに、彼女は答えた。


「…………そうか。」


服に仕込んでいたナイフを取り出す。

狙うのは脳天だ。


刃が数十センチだけ進んだ。


そこで止まる。


俺は首を絞められていた。


だが、絞め殺すためではない。


彼女は首を掴んだまま、

近くの墓石を一瞥し──


──叩きつけた。


墓石が崩れ、血が頭から噴き出る。

疎らに降る雨で血が薄まった。


まだだ。


処刑は終わっていない。


動かせない身体を、彼女は蹴り飛ばす。


俺は高度三メートルの放物線を描き、墓地を踏み砕いていく。


「殺せ。骸賢者(リッチ)


殺されてたまるか!


追手から盗んだ聖水を傷口からぶっかける。

かけられた金縛りの呪いを解いて走り抜けていく。


それを追って、

半幽霊、半骸骨の亡者が空を駆ける。


考えろ。

呪いが始まったのは触れられた時だ!


骸賢者(リッチ)は一番の脅威ではない。


彼女に触れられることが最悪だ。


聖水はあと一本。

だが、それはあと一回は大丈夫という意味ではない。


金縛りを解く前に殺されるかもしれない。

それか、攻撃時に瓶が割れないとも確証できない。


「■■………。」


魔法は理解できるはずなのに、聞き取れない。

重なったような声が神経を逆撫でしてくる。


だが、確実なことは。


詠唱を終わらせれば一撃で死に得るということだ。



英雄との戦いは一か八かの連続。


安定する一手など弱者は何も持ち得ない。


そう言い聞かせて、ナイフを投げた。


現時点では唯一の武器。


だが、骸賢者(リッチ)は血の滴るナイフを素手で掴んだ。


「■■■■」


詠唱は止まらない。


まだ気が付いていない。


「………!」

紫の瞳がナイフを見て動きを止める。


英雄は気が付いたらしい。


俺は追手の亡骸から新たなナイフをひったくる。

そして、宙の亡者を素通りした。


彼女は拳を握り、俺を迎える体勢を整えた。


その時、ようやく。

骸賢者(リッチ)も気が付いた。


投擲する前に、俺の血を擦り付けた。


聖水と混ざりあった血に、直接触れていた。


「………!」


もう少し早く気が付けば魔法で迎撃も出来ただろう。


雨と血は、濡れた刃先を誤魔化してくれていた。


血と泥で満ちた墓地を駆ける。


骸賢者(リッチ)を聖水一本で祓えるわけが無い。

直ぐに回復される。


彼女はまだ退屈そうな顔をしていた。


当然だ。


英雄と呼ばれる所以は、鎮めた霊の多さだ。

手札の一枚をビビらせたから何になる。


急げ──。


ナイフを再び、脳天に向かわせる。

それは止められる。


想定内だ。


金縛りとは呪いが肉体に作用するものだ。


であれば、物理的に固定する働きはない。


左足に、痛みが走る。


既に振りぬいていたからだ。


彼女の足に、ガラスが突き刺さる。


ズボンに小瓶を挟んでいたからだ。


聖水は効果を発揮し、俺の身体の制御を取り戻させた。


「痛ッ!」


真紫の肌は、シュゥゥと音を立てている。


霊に囲まれた彼女がなぜ平気か。


彼女はグールだ。


後天的に、死者として現世に残った呪い。


女神の力は、死者を現世から解き放つ。



彼女は硬直し、俺は動いた。


ナイフを止める存在はない。


ズブリと、深く突き刺さった。


「…………死ぬと思った?」


彼女の拳が腹にめり込む。


これも当然だ。


額から、紫の血液とナイフが取り除かれる。


骸賢者(リッチ)さっさと戻れ。」


彼女は死者。


臓器なんて概念も、

急所という概念も、


無い。


「ますます惜しいわねぇ。


貴方なかなか良い男よ。保証してあげるわ。」


構図は変わらない。


紫の瞳は罪人を見下している。


「…………殺すのか?」


「私にとっても残念だけどね。」


だが、一つだけ違う。

俺は強さの価値を証明した。


「何で殺すんだ?」


「……………貴方が世界を滅ぼそうとしたから……かしら。」


「ダメか?」


その目は俺を見ているのではない。

俺に釘付けになっている。


「”墓守の英雄”ミラスロヴァ。


逆に何で世界を滅ぼさない。


退屈そうな顔をしながら世界に尽くして何になる。」


「………私を口説いてるの?」


首を縦に振る。


俺は間違っていない。


「気に食わない物は壊せばいい。


アンタは強い。


アンタはこの世界は気に入っているか?」


退屈だった。

面倒だった。


それだけでも十分だ。


英雄は、その場でしゃがみ込む。


俺に目を合わせた。


「話くらいは聞いてあげる♡

どうやって滅ぼすの?」


数分前までは空想だった話を目に浮かべる。


「世界を滅茶苦茶にして、

魔界に喧嘩売って、

感づいたやつを皆殺しにして──」


俺は久しぶりに嗤った。


「神を蘇らせる。」


「あらあら♪」


女も嗤った。


「それは確かに世界が壊れるわね。」


血と泥にまみれながら

俺らは顔を見合わせた。


「「最高だ」」

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