父ヴィクトールの誓い─夏─
久しぶりの投稿です。
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
父、ヴィクトールの話はここまでです。
お付き合い頂きありがとうございました(*ˊ˘ˋ*)
翌日、厨房のテーブルには収穫したての2回目の枝豆が山盛りありました。
産毛までツヤツヤと輝くその姿は、見るからに美味しそうです。
昨日その味を知った者たちにはたまりません。
「後でみんなと食べるから……」
そう自分に言い聞かせて鼻をくんくんさせながら、名残惜しそうに通り過ぎて行きます。
けれど、食欲は正直です。
『ちょっと味見をするだけなら、バレないよな……?』
そんな囁きが聞こえたのか、アルベルトと二人の騎士がフラフラと吸い寄せられてきました。
「……二房だぞ。戻せば見た目は変わらん」
彼らは素早く豆を口に放り込むと、「空の殻」を絶妙な角度で元の山に戻します。
続いて数人の使用人も「ごめんなさい……!」と祈りながら一房……。
見た目は山そのままです。
更に厨房に来るはずのない、ヴィクトールとアルフレッドが現れました。
目の前のテーブルには、山の枝豆があります。
思わずアルフレッドは、子供のように目を輝かせました。
「おい、ヴィクトール。……あるじゃないか!」
アルフレッドが指をさし、隠しきれない歓喜の声を上げます。
「陛下、たぶん皆で食べる分かと……?」
「……少しなら、バレん♪」
アルフレッドの陽気な囁きに、ヴィクトールも抗わず「……確かに」と呟き、二人は示し合わせたように手を伸ばしました。
「美味いな」
「止まらんな」
「これ、本当に3歳児が育てたのか?」
一房取り、また一房……と、絶妙な塩加減と、噛むほどに溢れる豆の甘みに、二人は無限ループにハマっていきます。
「……あ、お前、私より一粒多く食べたな? なら私ももう一房……」
「いえ、陛下のほうが二房ほど先行しております。ならば私も……」
しかし……、ふとアルフレッドは、枝豆の山を見て動きを止めました。
「……ヴィクトール、…… 山が低くないか?」
「た、しかに……!」
その時です!
トテトテトコトコ……♪
「えだまめ、みんなで、たべるの~!」
愛らしい声が厨房に響き渡り、二人は手に持った枝豆を速攻で山へ戻します。
トテトテと足音を響かせて、レオンが笑顔でやって来ました。
必死に口の周りを拭い、何食わぬ顔で直立不動になるおじさん二人……。
アルフレッドにいたっては、王としての威厳を全開にして顔を顰めています。
バン!!
「レオン様!ドアは静かに開けましょう」
「ごめんちゃーい!……あれ?とうさま」
「や、やあ、レオン、元気いっぱいだなぁー」
「そ、そうだな!男の子はやんちゃなくらいがちょうどいいぞー!」
「えへへ、ボク、げんきー♪」
レオンは嬉しそうに、山盛りの皿を「よいしょ」と持ち上げます。
ビクッと国の重鎮二人は、身体を震わせました。
「……あれ? かるい?」
不思議に思い、一番上にあった大きな鞘を手に取りプリっと剥こうとします。
――カサッ。
中身がありません。首を傾げる、レオン。
不思議に思いながら、隣の鞘にも手を伸ばし……。その下の鞘も……。
レオンの指がだんだんと震え、ジワジワと大きな瞳に涙が溜まっていきます。
「……ない。……ないの。……おまめさん、おそら、飛んでった?」
そして、皿の底に溜まった大量の殻を悟った瞬間、レオンの悲鳴のような泣き声が屋敷中に響き渡りました。
「うああああああん! おまめじぁぁぁん!!」
その大きな泣き声に、カトリーヌ、ブルーノ、マルコ、ニコ、そして使用人たちが血相を変えて飛んできました。
「レオン!? どうしたの! ……えっ、この殻の山は……?」
カトリーヌの視線の先には、口の端を引き攣らせ固まっている、ヴィクトールとアルフレッドが……。
「お父様……。陛下……。……一体何をされたの?」
カトリーヌの背後に、どす黒いオーラが立ち上ります。ブルーノは無言で懐から暗器をチラつかせ、ニコとマルコは「信じられません……子供の楽しみを……」と冷ややかな視線を送りました。
皆から散々怒鳴られ小さくなっている最高権力者二人を尻目に、レオンは泣き疲れてしゃくり声をあげていました。
「ひっ……ふぇっ……。おまめ、みんなで……はんぶんこ、ちたかった、のに……」
カトリーヌの胸の中で、グズグズと泣きながら、レオンはそのまま眠りについてしまいました。
寝顔にはまだ涙の跡が光っています。
泣き疲れてカトリーヌの膝で「ふぇっ……」と鼻を鳴らすレオン……。
その愛らしい姿には癒やされますが、原因である食い尽くされた絶望を与えた重鎮二人に対して、侯爵家の人々は芯まで凍てつく絶対零度の眼差しを向けました。
「マメしゃん、ないの。……うう」
微かなぐずり声を漏らし眠りについたレオンを、カトリーヌはソッと抱いて部屋へ休ませにいきました。
侯爵邸へ向かうはずだったエドワードは、カトリーヌの伝令に顔色を変え、急ぎ公務を切り上げ駆けつけました。
エドワードが荒い息を切らし大広間を見ると、そこには問題を起こした重鎮二人が、借りてきた猫のように縮こまっています。
「……父上、ヴィクトール卿、あなた方は、恥という言葉を知らないのですか?」
大広間に響くエドワードの声は、まるで極寒の大吹雪のような鋭さで二人の過ちを問い詰めました。
正面から対峙する二人の重鎮は、余りの容赦なさに肩を激しく震わせます。
「三歳の子供が皆の喜ぶ顔を見たいと、頑張って慈しんできた豆を……、地位も名誉もある大の大人が、殻だけ残して食い尽くすとは……。あまつさえ、その殻をそっと皿に戻して食べたことを隠そうとするなど、浅ましいにも程があります!」
あまりのド正論に、アルフレッドとヴィクトールは、床を見つめるしかありませんでした。
その背後でアルベルト、騎士たち、そして使用人たち(つまみ食いした)も、一様に顔を伏せています。
(す、すまん、レオン。がまん出来なくて)
(……ご、ごめんなさい坊ちゃま。実は僕たちも二房ほど……)
(……私も一房……。でも、まさかあんな殻の山になるとは思わなくて……)
彼らは名乗り出る勇気もなく、心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と猛省の呪文を唱え続けました。
そこへ泣き疲れて寝ていたレオンが、グジグジ目をこすりながら、カトリーヌに抱かれてやってきます。
「……ひっ。……おまめ、ない……なの……」
まだしょんぼりと悲しむレオンの姿に、エドワードは「おいで」と両手を広げて受け取り、胸の中に収まったレオンの頭を優しく撫でました。
「レオン、大丈夫か?エドにぃが悪い大人は退治したからな。それに頑張ったレオンには、エドにぃからプレゼントだ」
エドワードの合図で待ち構えていた従者たちが、御伽噺のような宝箱を運び込みました。
蓋を開けると……、色とりどりの宝石を散りばめたような「贅沢なスイーツ」、瑞々しい旬を集めた「芳醇な果物の詰合わせ」、そして、物語が今にも飛び出しそうな「色彩豊かな仕掛け絵本」など……。
レオンを大喜びさせる為だけに、特別に準備した物を持って来たのです。
レオンの目と顔が、ぱぁっと輝きました。
「……きらきら、おかし。……実が、いーぱいね。 本、動いてりゅ!」
「あぁ、全部レオンのものだよ。誰にもわけなくていい」
エドワードが冷たく父親たちを牽制すると、レオンは「えへへ」と涙の跡を拭って笑いました。
機嫌の戻ったレオンは、さっそくお菓子を一つ手に取ると、トテトテと知らないおじさんとヴィクトールの元へ歩み寄りました。
「とうたま、おいちゃま……らいじょーぶ? まめさん、ないけど、おかし、はんぶんこする?」
その純粋すぎる慈悲の心に、二人の大人は「うおおおん!」とレオンを抱きしめて号泣しました。
「レオン! すまない! 父様が悪かった!」
「レオン、次は私が苗を千本用意させるからな!」
その様子を横で見ながら、つまみ食いをした者たちは「……明日からはレオン坊ちゃまのために、全力で頑張ろう」と、密かに忠誠を誓い直しました。
しかし豆を食べる事が出来なかったエドワードの怒りは、そう簡単に収まるものではありませんでした。
「エドにぃ……、おいしー、すぐできるから、まっててね」
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〖─ヴィクトール視点─〗
執務室の窓から見下ろすと、庭園の片隅にレオンの菜園がある。
今日も我が息子は服を、泥まみれにしていた。
「ヴィクトール様、またあちらをご覧になられて……」
側近の呆れた声を無視し、私はそのまま眺めていた。
レオンあの子は生まれた時から、どこか浮世離れした子供だった。夜泣き一つせず、ただ静かにその瞳でまわりを見つめ、言葉を覚えれば、幼子には似つかわしくない農学の深淵を語り始める。
その神童ゆえの早熟さは、周囲の目にはひどく危ういものに映った。
階段を下り、柔らかな土の感触を楽しみながら菜園へ行くと、青々とした葉の匂いと爽やかなハーブの香りが、ふわりと鼻腔をくすぐる。
「……匂いがいいな、レオン」
ヴィクトールが声をかけると、レオンはひょこりと顔を上げ、麦わら帽子の下で嬉しそうに笑った。
「とうさま!トマトに、『おいしいな~れ』した。とうさま、お顔、おこっちゃ、ダメよー?」
3歳の幼児に、国の重鎮の私が諭される。
本来なら笑い話だが、レオンの言葉には不思議と凝り固まった肩の力が抜ける。
叡智を権力争いの道具として利用されたら?
もしこの穏やかな微笑みを、心ない者たちに踏みにじられたら?
そう考えただけで、憤りと苛立ちが生まれた。
「……とうさま。そこはダメよ、お日さま、とっちゃ、ダメね」
私の影が菜園に落ちたことに気づいたのだろう。
レオンが小さな麦わら帽子を揺らしながら振り返った。その頬には黒い土がついており、宝石のようなサファイアの瞳は、夏の陽光でキラキラと輝いている。
「ああ、すまない。邪魔をしたな。……今日は何をしているんだ?」
「トウモ、ロコシさん、おひげ見てる。茶なら、食べて、おっけーよ」
三歳児とは思えぬ様子で、トウモロコシの巨大な葉を優しく撫でる。
私の胸ほどにあるトウモロコシは、レオンの視界ではさぞかし巨大な塔のようにそびえ立っていることだろう。
根元には、彼が「コンパニオンプランツ」という聞き慣れぬ理屈で植えさせたトマトが、真っ赤な実を重そうに垂らしている。
さらにその下を占めるのがあの豆であった。
私は思わず目を逸らし、青々と茂った葉や、土が熱を帯びた独特な空気の匂いを嗅いだ。
「レオン。一番最初のトウモロコシは私に食べさせてくれるかい?」
「うん! いいよ。とうさまは、はらぺこで、待つのよ」
息子はホニャ~ンとした、彼特有の穏やかな笑みを浮かべる。
この子は侯爵家の次男として、あるいは国の至宝として、いずれは逃れられぬ荒波に揉まれる日が来るだろう。
だが、このわずか六畳の菜園で土を愛で、生命を慈しむ心がある限り――彼は、自分を見失うことはないはずだ。
「アルベルトもカトリーヌも、収穫の日を楽しみにしている。……もちろん私もだ」
しゃがんで息子レオンの頭をワシャワシャ撫でると、泥だらけの小さな手が私の裾をギュッと握りしめた。
─1ヶ月後─
「ヴィクトール……、あのトウモロコシ一つくらい、食べてもバレやしないだろう?」
「……陛下忘れたのですか?枝豆の悲劇を……」
「う、うむ……」
国王陛下も賢者に、胃袋を捕まれていた。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)
ごめんね。レオンくん……( ߹꒳߹ )シクシク
申し訳ありませんが、お時間頂きます。
出来上がったら、また投稿しますので、
よろしくお願いします(´・ω・`)ゴメンナサイ




