─宣言後は根元を断つ─
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
重厚な扉が閉ざされた教皇専用の執務室。
ステンドグラスから差し込む光の中で、現教皇――セレスティーヌは、ベネディクトからの極秘親書を握りしめていました。
「……泥、ですって? 相変わらずエレーナの周りには、奇妙なことばかり起こるのね」
セレスティーヌの脳裏には幼き頃、語り合い笑い合ったエレーナの姿が鮮明に蘇ります。
貴族の令嬢でありながら、誰よりも気さくで心穏やかな親友、時々面倒事に巻き込む困ったさんではあったけれど……。
彼女は羽ペンを取り、教皇直筆の「特別赦免状」と「事業認可証」を書き上げます。
そこには、孤児院での石鹸生産を『聖域』と定め、いかなる世俗の権力(他の貴族や軍)も立ち入らせないという、強大な権威が込められていました。
「ベネディクト……あなたの魂胆がどこにあるかわからないけれど、……確かにこのままでは子供たちが危ないわ。……いいでしょう。その企て乗ってあげる」
数日後……、教皇からの「即レス」とも言える異例の特使派遣を受け、ベネディクトは王宮のバルコニーで静かにワインを傾けました。
「……ふふっ、やはり教皇は動いた。エレーナの事となると、教皇の威厳もどこへやらだ」
彼は手元にはレオンが作った「歪な泥石鹸」(カトリーヌが渡したモノ)
小さな指先の跡が可愛らしく、一生懸命作ったのがうかがわれる。
「フフフ……あの時の赤子が、大きくなりましたね。いつか会いにいきましょう」
小さな指先の跡を優しく撫で、ベネディクトは穏やかな思い出に浸りました。
********************
華やかな音楽が流れる中、カトリーヌとエドワードは繋がっていそうな貴族たちの顔を一人ずつ扇子で隠すように眺めています。
煌びやかなシャンデリアの下、各国の思惑が交錯するパーティーで、ある大国の外交官が自信満々に歩み寄り、エドワード皇太子の存在を無視するかのように、カトリーヌへ恭しく頭を下げました。
「カトリーヌ令嬢、我が国の第一王子が貴女の『慈愛の石鹸』に深く感銘を受け、ぜひ王妃としてお迎えしたいとの親書を預かっております。よろしければ、両国の平和の礎となって頂きたく存じます」
周囲がシーンと静まり返る中、カトリーヌは扇子を口元に当て、困ったように首を傾げました。
「まあ……閣下、それはジョーク的褒め言葉かしら?私の泥遊びを、そこまで高く評価してくださりありがとうございます」
「ハハハ……、あまりに君が魅力的だから、他国の王子は現実と夢の区別がつかないようだ」
エドワードは笑うと、当然のような仕草でカトリーヌの腰を引き寄せ、独占欲を示すように抱き寄せました。そんなエドワードに、カトリーヌもフフフ……と笑って許します。
あえて言葉にせず、態度でお断りだと伝えたのです。
それを見た外交官は自分のことを棚に上げ、傲慢な態度で言いました。
「……若さゆえの慢心ですか。国家を天秤にかければ、どちらが良いか判るはず……。その矜恃がいつか、脆く崩れ去ることをお忘れなきよう」
己の立場もわからぬままに、外交官は肩を震わせ足早に立ち去りました。
その様子を見て「ヒュ~ッ♪」と、気楽な仕草で口笛が吹きます。
肩を竦め軽やかな足取りで会場をまわるアルベルトは、貴族らから『侯爵家の愚か者』と侮られ、自分の娘を娶れと執拗に絡まれることばかりです。
今も遠目でジトリと睨みつけられています。
「おっと、閣下。そんな怖い顔をして、どうしたんだい? せっかくの高級なワインの味が不味くなるよ」
「……アルベルト殿、 相変わらずの軽さですな。侯爵家で肩身の狭い思いをしていませんか?我が娘を娶って頂ければ如何ようにもできますぞ」
アルベルトはケラケラと肩を揺らして笑うと、親しげに肩を叩きました。
「あいにく、僕はその狭さが気に入っているんだ。気楽でいいじゃないか。それに僕はまだ14歳だし、恋愛を謳歌したい。無粋な鎖に繋がれるなんてごめんだよ。まあ……、たまに我が侯爵家に不届きな虫が出たら叩き落とす。それで侯爵家は回るんだから、世界中どこを探してもこんな気楽な場所はないだろう」
アルベルトの瞳から一瞬だけ軽薄さが消え、底知れない冷ややかな光が男を射抜いた。
「それより閣下、あんたの娘さんや奥さんは大丈夫?僕の心配するより、そこを心配するべきじゃないかな?だって他はツルピカなのに奥さんと娘さんは泥臭い?あぁ泥無しだっけ?まぁ、父親、夫として少しばかり不憫じゃないかな。……あんたが最近、誰と何を契約したのか、俺が知らないとでも?侮られたものだな」
男に近づき耳元で囁くと、蛇に睨まれた蛙のように硬直しました。アルベルトは再びいつもの「のほほん」とした表情に戻り、男の胸元を整えて離れました。
男は愕然とした表情になり、左右をキョロキョロ見回すと、そのまま会場を後にしました。
「……ブルーノ、頼んだぞ」
窓の外はすっかり夜の帳が落ちていました。
のほほんと笑うレオンの元へ行きたくても、ここで元を絶たなければ、また危うくなるのはレオンです。
(……にぃちゃんがんばるからな)
最近にーさま呼びを寂しく思いながら、レオンを心配するアルベルトでした。
華やかな夜会の喧騒も、その一画だけは冷ややかな緊張感に包まれています。
ヴィクトールの背後に忍び寄った他国の商人貴族は、手にしたグラスを弄びながら粘りつくような視線を送るからです。
「……侯爵、ご機嫌はいかがでしょう。これほどの大事業を成し遂げたというのに、少々お疲れなのでは? 大切な奥方を亡くされた傷も癒えぬまま、幼い愛息を抱えての政務……。ふふ、足元を掬われぬよう、お気をつけなさい」
暗に「隙がある」と揺さぶりをかける無礼な言葉を遮るように、ベネディクト大司教が静かに歩み寄りました。
「おや?随分と不吉な予言をなさる。……何かご不満でもおありかな?」
ベネディクトの鋭い眼光に一瞬たじろぎながらも、芝居がかった嘆息をもらしました。
「不満? 滅相もない。ただ、此度の『泥石鹸』の発明があまりに……そう、あまりに魅力的で、恐ろしいほどです。これほどの至宝を、あろうことか『タダ同然』で世界に売り渡すとは……。正気の沙汰とは思えませんな」
商人貴族はまるで色褪せたものを見るように、会場に飾られた石鹸のサンプルを指差します。
「これまで膨大な時間と血をかけて研究された叡智でしょう? 相応の対価、莫大な利益を得てしかるべきだ。……我が国、我が商会であれば、その価値を正しく理解し、より効率的に分配する術を施すことができましたのに、……誠に残念で勿体ない事をなさると思いまして」
その言葉の端々には、隠しきれない独占欲と、計画を狂わされた者特有のどす黒い感情が滲んでいました。
薄汚い笑みを浮かべ、仰々しく一礼をします。
「これほどの大事業、前途多難でしょう。それでは、また。……皆様の『平穏』が、いつまでも続くことを祈っておりますよ」
ふてぶてしい足取りで去っていく背中を見送り、会場の喧騒から離れてから、ベネディクトがヴィクトールへ問いかけました。
「……侯爵、屋敷の方は大丈夫か? あのような手合いは、言葉よりも先に手が動くぞ」
ヴィクトールは手に持ったグラスを軽く回し、どこか楽しげな様子を浮かべています。
「ご心配なく。うちには素晴らしい軍師がおり、あの『死神』が現役さながら、牙を研ぎ澄まし待ち構えています」
ニヤリと目をすがめて答えるとベネディクトは、かつての戦場で数多の敵を沈めた伝説の影を思い出し、ゴクリと喉を鳴らします。
「……死神、ブルーノか。あの者は引退したと聞いたが? ……恐ろしいな」
「フフフ……。大司教閣下、あ奴の『赤子言葉』を聞かれますか? 毎日、レオンに向かってそれはそれは熱心に語りかけておりますよ」
「……ブハッ! げほっ、ごほっ……う、嘘だろ……っ!?」
あまりのギャップに、聖職者としての矜持も忘れ、ベネディクトは口に含んでいた最高級のワインを勢いよく吹き出しました。
周囲の貴族たちが驚いて振り返る中、彼はむせ返りながら、信じられないものを見る目でヴィクトールを睨みつけます。
「あの、あの血も涙もない死神が……赤子言葉だと!? 冗談はやめろ、世界がひっくり返るぞ!」
「実話ですよ。……もっとも、……その姿を不届き者に見せる時は、それがその者の『人生最後』の光景になるでしょうがね」
ヴィクトールの冷ややかな冗談に、ベネディクトは「……見たくない、絶対に見たくないぞ」と、引きつった笑いを浮かべながら空になったグラスを差し出しました。
とは言いつつ、……朝になるなり邸へ飛び帰ったヴィクトールでした。
結託した悪者たちが、暗い地下室で暗殺ギルドに依頼を組織的な部隊を放ちます。
侯爵家一同の逆鱗に触れる彼らの運命は、もう決まったも同然だったのです。
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