魔法の庭 ─冬─ そしてピザパーティー♪
久しぶりの投稿です。
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
短編のままです。
トコトコポテポテ、季節を感じながら、
穏やかに過ごすレオンの一年です。
空気がツンと冷たく、レオンの菜園も冬支度を終えました。
桃やリンゴの苗木は葉を落として静かに眠り、野いちごも寒さに耐えるように小さな葉を地面に伏せています。
「……みんな、お休みしてる。でも、準備してるから、大丈夫」
厚手のコートに包まれて、トテトテとレオンは物置へ向かいました。風通しの良い場所に吊るして、初夏のうちに収穫したドライラベンダーの束がありました。
乾燥した空気は、働く人の手を荒らします。
(……手がいたいのはイヤだよね)
「ブルーノ、おねがいがあるの。ちょっとだけ、お手つだいいい?」
「坊っちゃま? ……何をされるんですか?」
短い手足でトテトテと歩きながら、菜園の隅へと向かいます。
そこにはいろんな種類のハーブや、蜜蝋の原料になるハチの巣など、前世の知識で集めた材料がありました。
ブルーノに持たせた、材料を入れた箱をニコに渡しました。
「ニコ、火小さくして。ゆっくり、ゆっくりまぜる……」
調理場の片隅で、レオンはニコと一緒に蜜蝋を溶かしていきます。
ブルーノは乾燥したラベンダーの蕾を温かいオイルに浸し、夏と違う甘さと深みのある香りが立ち上げてました。
「蜜ろうをとかして、このお花を、漬けこんだ油とまぜまぜして……。仕あげに、このラベンダーのしずくを一滴……。ハイ、おしまい」
ニコはレオンに、言われるがままに混ぜていくと、器の中にはとろりとした黄金色のハンドクリームが出来ました。
レオンはスプーンですくい器に入れて、……クンクン、……ペタペタ。
「……ふわぁ、匂いがいいですね、坊っちゃま。とっても落ち着く香りです」
ニコがうっとり鼻をくすぐらせていると、レオンは手をとって、そのクリームをペタペタ。
朝から晩まで仕込みに追われる料理見習いニコは、アカギレで手が痛そうです。
「……どう、ニコ?」
「……っ! こ、これは……、手のひらがしっとりと肌に馴染んで落ち着ます。……とても」
ニコは余りの感動で身体が震えました。
アカギレの痛みがスーッと引いていきます。
そんなニコを置いて、レオンは寒い庭へ向かいました。
庭では立ち枯れた木や枝を、片付けています。
「ブルーノ、冬の土は冷たいから、手が痛いでしょ?」
ひび割れたブルーノの手を、レオンはクリームを塗りました。
特製クリームは冷めて固まり、まるで雪のように真っ白で、体温で溶けるとラベンダーの安らかな香りが広がります。
「……レオン様。冬枯れの庭で、まさか春のような香りに出会えるとは……」
屈強な庭師のブルーノは、賢者の小さな手に癒やされて、思わず涙を浮かべます。
だからレオンは思わず、キュッと抱きつきました。
冬の菜園は何もない状態でも、いろんなモノが出来ているようです。
侯爵邸の使用人たちにも、レオンは配って回りました。もちろんみんな涙を流して大喜びです。
やっぱり冷たい冬には、ハンドクリームでした。
その話は廊下を歩いていたカトリーヌにも届きます。
そしてレオンからもらっていません。
「……バラはお肌に優しい、いいお花よ」
羨ましくて拗ねるカトリーヌの機嫌を取るため、特別製を作る事にしました。
それはハンドクリームにローズオイルを数滴混ぜるだけ、ラベンダーだけよりもっと華やかな香りになります。
「……あら!なんていい香りなの。 エッ!私だけのハンドクリーム?!……レオン! ありがとう、この香り癒されるわ♪」
……うっとりと香りを楽しむねえ様のご機嫌はあっという間に戻り、レオンの頭をナデナデして褒めまくりました。
でも……、カトリーヌの悩みは肌だけではありません。数日後、相談を受ける事になりました。
「レオン、見てちょうだい!どんなに髪を手入れしても、冬の風のせいでパサついて、ちっとも言うことを聞かないのよ……」
鏡の前でしょんぼりするカトリーヌを見て、レオンは「おぉッ」と呟き頷きます。
静電気でゴワゴワになり、絡まっています。
「ねえさま、バラさんに、お願いするね。リンスを作るから、待ってて!」
フスン、フスンと鼻息荒く言うと、レオンはドアをバンと開け、部屋を飛び出して行きました。
「……?レオン、どうしたのかしら?」
「お嬢様の為に、薔薇に何やらお願いすると……リンス?」
カトリーヌたちは頭を傾げて、レオンの飛び出した後のドアを眺めていました。
「……そろそろマナーを学ぶべきかしら?」
「そうですね……」
レオンのお勉強時間が決定しました。
レオンは大切に貯蔵していたバラの花びらを、急いで厨房に持って行きました。
パタパタとレオンにしては急足な音に、マルコとニコは覚悟します。
またなにか賢者が閃いたのだろうと……。
しかし……、煮沸した透明な瓶に、乾燥させたバラの花びらをギュウギュウに詰め込み、そこへリンゴ酢をひたひたに注ぐ……。
「これでおしまい。あとはお日様キライだから、ちょっとだけ、おやすみなさいさせる」
「……それだけですか?」
「レオン坊っちゃま、なんですか、ソレ?」
マルコとニコは、余りにも簡単な作業と組み合わせに、何が出来るのかわかりません。
「食べものじゃないよ」
……一段と謎が深まるだけでした。
数日後、バラのエキスを吸い込んだ瓶の中のお酢は、宝石のような深いルビー色に染まっています。
レオンはその瓶を持って、カトリーヌの部屋へいきました。(ニコ持ちです)
「ねえさま、おフロで髪を洗ったあと、これをせんめん器のお水に少しだけまぜて、髪を濡らしてみて」
カトリーヌはメイドにお願いして、言われた通りに試すと、お酢の力で髪がキュッと引き締まり、バラの成分が潤いを与えます。
「……?! 信じられないわ。指がすり抜けるくらいサラサラ 、それに……、ツンとした匂いが消えて、髪が揺れるとバラが香るわ!」
お風呂上がりのカトリーヌが、サラサラと輝く髪をなびかせています。
「エヘヘ、よかった!ねえさま、お肌チクチクも、これ薄めて、パシャパシャすると、バラさんが守るよ」
お酢には殺菌作用や、肌を弱酸性に整える効果があります。
「あなたって子は……!この瓶ありがとう。 明日のお茶会で、この髪自慢しなくちゃ!」
ウルッとした目でレオンを見て、髪の感触を確かめニッコリと微笑みました。
(……ねえさま。自慢はほどほどにお願いね……)
レオンは遠い目になりながら、次の瓶を仕込む事にしました。
数ヶ月後、外は猛吹雪でレオンの菜園は雪に埋もれています。
レオンは大切に取っておいたドライローズヒップを取り出し、熱いお湯を注ぎました。
「お待たせ。冬に負けない、魔法だよ」
乾燥した実からゆっくりと滲み出すと濃い紅色になり、フレッシュの時よりも力強い酸味と香りが、侯爵邸の広間に広がります。
「……レオン。お前は本当に……、冬の中に春を隠しておくのが上手いな」
仕事に疲れて帰ってきたヴィクトールは、その一杯を飲み干して、ホッと肩の力を抜きました。
レオンはのんびり笑いながら、「来年はもっとたくさんハチさんにお願いして、実を作ってもらおう」と心に決めるのでした。
トテトテ、ポテポテ……
今日も元気よく、庭へと繰り出すレオン。
「大きくなってる」
支柱に巻き付いたトマトが、陽光を浴びて赤い実を膨らませています。その奥ではお豆たちが緑色の鞘を誇らしげにぶら下げています。
しかしその後ろには……、ドレスを汚すこと嫌がっていたカトリーヌと、剣や学問に明け暮れていたアルベルトが、楽しそう付いて来ます。
「レオン、あちらのトマトが赤くて美味しそうだわ。私が採って来てあげましょうか?」
「こっちのハーブの香りはいいなぁ。レオン、次は何を作る予定なんだ?」
美しき兄姉が賢者レオンを、甲斐甲斐しく世話をやいています。そんな穏やかな光景が、侯爵邸の日常になりました。
「……さてレオン様、トマトソースを作りましたよ。ハーブもばっちり隠し味に入れました」
マルコが庭に設置されたテーブルに乗せると、アルベルトやカトリーヌは、収穫した野菜を使用人に渡しています。
でも今日の目玉は、……収穫ではありません。
レオンのおねだりで実現した、石窯(ブルーノとニコがレンガを積み上げて作った)が完成していました。
「坊ちゃま、火が入りましたよ!」
「ありがとう、ブルーノ!ニコ、生地の準備できてる?」
発酵させた生地をニコは持ち上げ、ニッコリ。
「ねえ様、いっしょに作ろう」
「ウフフ……、この時を待ってたわ♪」
ピザに乗せるのはもちろん、レオンの庭で採れた瑞々しい野菜です。
「さぁ、レオン坊ちゃま。特製ピザを焼きますよ!」
石窯の中でパチパチとはぜる薪の音……。
香ばしい小麦の匂いととろけたチーズ、そして焼かれたトマトの香りが広がります。
「あぁー〜!もう香りだけでたまらないわ。私の作ったピザはまだかしら」
「……チーズはたくさん入れてくれたかい?」
カトリーヌはジッとできずに、ウロウロ……。
使用人にアルベルトは確認中。
「……まだまだ二人は子供だな。レオンの方がよほど、しっかりしてないか?」
ヴィクトールは呆れた様子で、ワインを片手に焼きトウモロコシを食べています。
窯を開けると、芳醇なトマトとハーブの香りが辺りを充満し、できた上がったピザが取り出されるのを今か今とドキドキのワクワク状態です。
出来上がったピザは、真っ赤なトマトソースの上に新鮮なハーブが香りを放ち、トロトロに解けたチーズが焦げ目のついた生地をトローリと包んでいます。
余りの暴力的な視覚に、みんなは一斉に手を伸ばしました。
「んんっ?!……美味しい! レオンの育てた野菜は最強よ。ハァ~、もうとっても幸せな気持ちよ!お外で食べるのも刺激的で素敵♪」
「……本当だ。高価な肉料理より、この焼いたトマトの方が、何倍も美味しいよ」
姉様と兄様は行儀も忘れて、熱々のピザをハフハフと頬張り、とても幸せそうに食べています。
レオンも冷ましながら、ピザを食べました。
太陽いっぱいに栄養を育んだトマトのソース、ハーブバジルも香り良くて……。
自分の小さな手で作った野菜が、大好きな家族 を笑顔にできて、レオンは胸がいっぱいです。
(ふわぁ……、なんだか幸せだなぁ。前世はベランダ菜園を一人でしたけど、みんなで食べるともっと美味しいね)
ポカポカとした陽気の中、お腹いっぱいになったレオンは、姉様の膝の上でトロンとしていました。
「レオン、貴方は本当にお庭の魔法使いね」
姉様の優しい声を聞きながら、レオンはいつの間にやら夢の中……。
侯爵邸の使用人たちもいつの間にか、レオンの庭を中心に、みんな家族のように笑い合っています。
豪華な装飾も、高価な彫像もありません。
ただ陽だまりと土の匂い、そして植物たちが生きる風の囁きが聞こえるくらい……。
気がつくと……、レオンが作った小さな菜園は、侯爵邸全体を包み込むような最も温かな場所へと生まれ変わりました。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




