─秘匿された陽だまり─
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときのほほんとよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
窓から差し込む午後の光は、まるでお砂糖をまぶしたみたいにキラキラと白く光っています。
侯爵家の次男であるレオンは、テラスの小さな椅子に座って、じっとお庭を眺めていました。
今レオンの心の中は、小さな嵐が吹くみたいにザワザワ、ザワザワとしています。
(みんな、美人さんになったばっかりに……)
視線の先では、庭師のブルーノがバラの剪定をしていました。泥石鹸で磨き上げられた彼の横顔は、彫刻みたいに美しく、通りかかるメイドたちが思わず足を止めて見惚れてしまうほどです。
厨房の方からは、マルコが鼻歌を歌いパンを焼くいい匂いがしてきます。
マルコもお肌がツルツルになり、知らない男たちに「美しさの秘密を教えてくれ」と追いかけ回され、もてもてになっていました。
(……ボクが、教えちゃったから)
レオンは自分の小さな掌を見つめました。
みんなピカピカの美人さんになったのは、レオンが教えた「泥石鹸」のせいです。
そのせいでお屋敷の周りに、侯爵家一同をお嫁さんにしたくて、仲良しになりたくて、更にウズウズした「悪い人たち」が、こっそり様子を伺うようになりました。
レオンが珍しく、眉間にシワを寄せています。
「レオン坊ちゃま、どうされました? そんな難しいお顔をして?」
後ろからニコが優しく声をかけました。
ニコの肌も洗いたてのリネンのように、白く透き通っています。彼の後にはフワッとミントのいい香りがして、まるでおとぎ話の王子様みたいです。
レオンはニコのズボンの裾をぎゅっと握りました。
「……ニコ。みんな、とっても、キレイよ」
「フフ……、ありがとうございます。レオン坊ちゃまのおかげですよ」
「……でも、……わるい人、来るの、いや」
レオンは、はっきりと言いました。
ニコの肩がビクッと震えました。
やっぱり……!瞼は涙でうるうるです。
だってお父様やお兄様たちがバタバタと忙しいのも、この「美人すぎるお屋敷」のせいです。
「ボクが……みんなを、ニコも、マルコも、ブルーノも……、美人さんに、したから」
レオンは、ゆっくりと椅子から立ち上がりました。
(どうにかしないと、みんな消えちゃう)
ポケットの中には、お庭で摘んだミントが、レオンの不安な心をスーと冷やしてくれました。
まるで落ち着いて、大丈夫だよと言ってるように……。
それがレオンの心を強くし、刺激をくれました。
レオンは一生懸命に考えるのです。
「レオン坊ちゃま……どうされました?」
ニコが不思議そうに見つめ、溶けるような優しい顔で微笑みました。
遠くで不審者の倒れる音が聞こえます。
「……ニコ。……おへや、かえる」
レオンはニコの大きな手を、自分の小さな手でしっかりと握りました。
トコトコ、ポテポテ……。
ここにいては、ニコが危険です。
(ボクが守らないと……)
レオンは自分のできる事を、考えました。
次の日、清々しい風が吹き抜ける菜園。
いつもなら「ニコ、つちほりほり、する」と声をかけるレオンが、今日は違いました。
ニコはレオンに頼まれた空のガラス瓶を大切に抱え、レオンについて歩いていました。
若草の香りと共にバラの蕾を風が揺らし、菜園の緑をいっそう深く輝かせています。
トコトコテクテク……。
レオンの小さな背中はどこか硬く、一点を見つめて迷いなく進んでいきました。
(レオン坊ちゃま、どうしたのかな……? なにも言わないなんて、めずらしい)
ニコが不安げに様子を伺っていると、道の中ほどで、大きな影が二人を遮りました。
剪定作業の手を止めたブルーノです。
「坊ちゃま? どちらへお出かけで……」
いつもなら「ブルーノ、のほほん、しよ♪」と駆け寄るレオンですが、ブルーノの呼びかけが聞こえないのか、トコトコと無言でその横を通り過ぎていきます。
いつもの……、ほのぼのとした柔らかな笑顔は消え、その瞳には幼いながらも、なにやら真剣な表情が宿っています。
ブルーノは思わず眉をひそめました。
「……坊ちゃま?」
返事はありません……。
トコトコテクテク……。
ただ小さな足音が菜園へと向かっていく響きだけが残りました。
菜園に到着すると、レオンはミントの茂みの前にどっしりと腰を下ろしました。
五月の陽光を浴びて、わんさかと、それこそ溢れんばかりに増えた緑の葉。
プチッ……。プチッ、プチッ……。
レオンの小さな指先が、迷いなくミントの茎をちぎり始めました。ただひたすらに黙々と、カゴの中へ緑の山を作っていきます。
剪定道具を片付けたブルーノの目に、ニコが不安いっぱいでその様子を見守っている姿がありました。
「……ミントの整理か?」
ニコは答えられずに瓶を抱えたまま困った顔をすると、ブルーノはニコの肩をポンと叩きました。
「……後は私が引き受ける。お前は自分の仕事がまだあるんだろ、行ってこい」
「うん……ブルーノ、レオン坊ちゃまをお願いします」
ニコが去った後も、菜園には「プチッ、プチッ」という音だけが規則正しく響いています。
レオンのちぎったミントを、ブルーノは黙って受け取り、雨水で洗いました。
レオンが持ってきた瓶を見て、たぶん入れるつもりだと考えて……。
ブルーノは時折、鋭い視線で周囲を警戒します。
レオンが真剣な表情で材料を集める、その理由を問うことはしませんが、この小さな主人の周りが今は平穏であることに、ブルーノは深く安堵していました。
カゴいっぱいのミントの香りが、澄んだ空気にツンと弾けます。
レオンの沈黙が何を意味するのか……。
さすがのブルーノもわかりませんでした。
(ボクがみんなを守るんだ……)
プチッ、プチッ、プチッ……。
世間では山場を迎えようとしています。
大聖堂の奥、厚いカーテンで陽光を遮った一室で、王妃イザベラは、向かい合うベネディクト大司教へ、一つの泥石鹸を滑らせました。
「大司教様。亡きエレーナの遺志を継いだカトリーヌが、やっと泥石鹸にしたモノです」
ベネディクトは、深く刻まれた眉間の皺を動かし、石鹸を手に取りました。
「カトリーヌ様が……、懐かしいですな。エレーナ殿が薬草園で、植物に深い慈しみ愛情を与えられた。それを娘御が引き継がれたと……」
「ええ。ですが……、 諸外国の密偵、利権に飢えた強欲な貴族どもが蠢いております。彼らは10歳の娘の発明品を『富を生む道具』として、寄ってたかって食い荒らそうとしています。……実際に諸外国からの手紙も届いておりますわ」
イザベラの声には、貪欲な輩に対する怒りと、子を守る母としての執念が宿っています。
彼女の脳裏には、侯爵邸の庭で何も知らず「のほほん」と過ごすレオンの姿がありました。
あの子の存在を、ドロドロした政治の場に引きずり出すわけにはいかない。
「大司教様。……カトリーヌを、そしてその背後にいる『幼子』の平穏を、私と共に一緒に守ってほしいのです」
ベネディクトは、石鹸から立ち上る清廉な香りを吸い込み、静かに目を閉じました。
かつてエレーナが微笑みながら庭を整えてくれた、あの穏やかな日々を思い出します。
「……承知いたしました。あの方の愛した子供たちの自由を、大人の欲という泥に沈めるわけには参りませぬな。この石鹸はカトリーヌ様の研究成果として、教会は守護いたしましょう。……末のレオン様は3歳になられましたな?」
「……ええ、そうです。とっても元気で可愛いらしいの。でも……、今回私どもがワタワタと駆けずり回る原因を作る、やんちゃな面もありますわ」
それを聞いてクスクス笑い出すベネディクトは、片眉を上げ続きの話を催促しました。
「……沐浴中、泥石鹸を湯に沈めドロドロにした後に、そのドロドロでとっても素敵な絵を壁一面に描いたそうです。将来は画家になるのかしら?」
「アハハハハ、この石鹸はそんな利用も出来るのですね」
「レオンは全身を泥でコーティング状態だったそうですわ。……ただそのコーティングの方が、効果が上がりますの」
王妃が遠い目をして言うと、ベネディクトは収まった笑いがまた噴き出します。
「……クッ、確かに元気がありますな」
「レオンはエレーナが望んだように、大空へ飛び立つほどの自由を与えたいのですわ。そうすれば、天にいるエレーナにもよく見えますでしょ、ベネディクト先生」
穏やかな微笑む姿は、家庭教師から変わらない……。
「……、エレーナの願いは私も全力で当たるつもりだよ。元生徒らの願いだからね」
二人の間で、鉄壁の防衛協定が結ばれました。
大聖堂でどのような密約が交わされたかなど、レオンは知る由もありません。
ただエレーナの願った「のびのびとした時間」が、大人たちの嘘に守られて、静かに流れているのです。
今レオンが何を考えているのか、もちろん大人たちは知る由もありません。
抜けるような青空の下、柔らかな陽光が、黙々と手を動かすレオンを、あたたかく包み込んでいました。
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