魔法の庭─夏から秋へ─
久しぶりの投稿です。
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
短編のままです。
トコトコポテポテ……、季節を感じながら
穏やかに過ごすレオンの一年です。
レオンが心待ちした、最もエネルギッシュに輝く季節がやって来ました。
梅雨が明け、ジリジリと太陽が照りつけるようになると、レオンの菜園は一気に賑やかになります。
「トウモ、ロコシさん……、ボクより、大きく、なった……、トマトさん、真っ赤っか」
自分の背丈の倍以上に伸びたトウモロコシの森を見上げて、感慨ぶかげに目を細めました。
トテトテと足元へ歩み寄ると、支柱にたわわに実った真っ赤なトマトが、太陽の光を浴びてキラキラと輝いています。
実は家庭菜園では〖コンパニオンプランツ(共栄植物)〗という有名な組み合わせ。
トウモロコシが強い日差しを遮って適度な日陰を作り、トマトの成長を助ける。
レオンは前世の知識で、狭い6畳のスペースを賢く使い、この二つを仲良く並べて植えたのです。
「においいい♪ね、ニコ」
ひげが茶色く乾いたトウモロコシを、ニコと一緒に収穫しました。
「ニコ、マルコへいく!トウモ、ロコシさんは、いまあまい!」
ニコに背負われ、厨房へ駆け込むと「今日はこれでお料理して!」とおねだりします。
マルコは目を丸くして、ニコはゼイゼイとトウモロコシに凭れ倒れていました。
皮を剥くと……、真珠のようにツヤツヤした黄色い粒がぎっしり。マルコがハケでハチミツ醤油(ありました♪)を塗って炭火で炙ると、醤油の焦げた香ばしさとトウモロコシの甘い香りが爆発します。真っ赤なトマトは、そのまま水風呂へ……。
「……ふわぁ!おひさまの匂い……。お口プチプチ、たのしい♪」
トウモロコシにかじりついたレオンの口の周りは、ハチミツ醤油のベタベタで幸せそう♪
真夏の太陽が降り注ぐ午後、ヴァリエール侯爵邸の裏庭には、香ばしい醤油の匂いと、弾けるような笑い声が響いていました。
「にいさま、それダメよ。食べたら、トウモ、ロコシさん、びっくりよ」
レオンは自分の顔ぐらいのトウモロコシに、凄い勢いでかじりつくアルベルトを、呆れた顔で眺めています。
庭に運んだテーブルの上には、レオンの菜園で採れた恵みがいっぱいです。
もぎたてトウモロコシの炭火焼き:
マルコ特製ハチミツ醤油が焦げて、たまらない香りを放つ。
完熟トマトのスライス:
キンキンに冷やしたトマトは果汁が溢れ出し、素材そのままの旨みがギュッと凝縮した一品。
「……っ、うまい! レオン、お前のトマトはなんでこんなに濃いんだ? 学園の食堂のやつとは比べ物にならないぞ!」
剣の訓練で汗だくのアルベルトは、口に放り込んだトマトの瑞々しさに目を丸くします。
「エヘヘ……、お日さまと、ボクと、ブルーノがんばりした」
テレテレに応えるレオンの頭を、ニコニコ顔でワシャワシャ撫でる、アルベルト。
カトリーヌもトマトを口に運びながら、うっとりと目を細めます。
「本当に美味しいわ。……レオン、このトウモロコシは、お菓子みたいに甘いわね」
さらにカトリーヌも頭撫でに加わりました。
レオンの顔が赤らみ、へにゃ~んと蕩けます。
「……美味そうだな、お前たち」
そこへ公務を終えたヴィクトールがやってきました。
レオンの野菜を、一番に食べるつもりだったヴィクトールは、皆に先を越されて不機嫌です。
レオンは父の帰宅に嬉しくて、トテトテと駆け寄り、トウモロコシを差し出します。
「とうさま、ハイど~ぞ!これ、たべて?」
「……ああ、ありがとうレオン。……父様はレオンの野菜を食べられて幸せ者だ。これは……良い匂いだ。夏が形になったようだな」
ヴィクトールが豪快に食いつくと、シャキッ、プチッという音がし、中から溢れ出す旨みに驚きます。
その横でトマトを頬張りながら、レオンはふと思いついて、空いた片手で何やら描き始めました。
突然レオンが何やら地面にガリガリ書き始めたので、ヴィクトールはトウモロコシを食べながら、息子の様子を眺めます。
アルベルトとカトリーヌは地面の絵を見ます。
「ねえ……、とうさま。つぎはね、あそこにね、コレつくりたい」
「……なんだコレは? 四角か?」
「……四角だな?……入れ物、か?」
「また、……はたけとか?」
……三人三様、不正解です。
「……ちがう、コレは、ピザがま!レンガと土のお家に、……火でアチアチで、たべるの」
レオンのサファイアの瞳が、未来の野望にキラキラと輝きます。
しかしヴィクトールたちは頭を傾げて、「……??」伝わってません。
「トマトさん、ギュッして、トウモロコシさんチーズを、うえのせて……アチアチお家で、いしで、パン、焼くの。そしたら!もっと、ニコニコよ♪」
「……たぶんピザ窯かと、レオン様は、野菜を載せたパンを焼きたいと、言われているのでは……?」
マルコの代弁が正解なので、ウンウンと頷きます。
「……お前は本当に退屈させないな」
ヴィクトールは困った顔で、レオンの柔らかな髪を撫でました。
「……チーズかぁ、美味そうだな」
「私もパン、作れるかしら?」
アルベルトもカトリーヌも興味深々です。
「いいだろう。来年の夏は、ここで焼き立てのピザ?を、家族で食べようじゃないか!」
ヴィクトールがニヤリと笑い言うと、兄姉もワクワクソワソワしています。
「うん! ブルーノとニコも、おねがい、手つだって……」
レオンがウルウルおめめで上目遣い……、いつもお手伝い三人衆は苦笑いします。
「世界一かっこいいピザ窯を作りましょう」
ブルーノが言うと、マルコもニコも「大変だなぁ」と楽しそうに笑っています。
レオンの頭の中には、すでに来年の設計図が完成していました。その横でアルベルトは「チーズは山盛りにしてくれよ!」と、早くも予約を入れるのでした。
レオンが作ったこだわり菜園は、家族全員に幸せの恵みを齎します。もちろん周りの使用人たちも、美味しい幸せな時間が流れていました。
侯爵邸の広大な敷地の片隅に、レオンの手に入れた聖域にわがあります。
秋の時期は、レオンの予定はいっぱい♪
足下には縦横無尽に這い回る、サツマイモの蔓が生い茂っています。
花が終わったバラには、楽しみが残っています。
でも今日は違うお仕事がありました。
「ブルーノ……、ハチさんたち、もうおなかいっぱいかな?」
実は『ハチさんのホテル』を、お花がいっぱいある所に設置して、ミツバチが冬を越すために溜めた濃厚な蜂蜜を、宿泊料代わりに頂きます。
ついでに蜜の詰まった巣も少しだけ分けて貰うのです。
これをとっておけば雪が降る頃に、みんなに魔法のクリームが作れます。
秋の陽光に透ける琥珀色の蜜蝋を見つめながら、レオンは冬の足音を楽しみに待つのでした。
ついでに手に入れた濃厚な蜂蜜を、さっそくマルコへ渡します。
「マルコ、おやつを作ろう? 美味しいの、ほっぺ落ちるよ。甘いまほう、ね!」
「おや、レオン様。それは楽しみだ。どんな魔法をご所望で?」
マルコは白い帽子を正し、小さな賢者レオンに敬意を表して腰を屈めました。
イスにのり、レオンがのほほんと指示を出します。
「まずは粉と卵、それからミルク。蜂蜜これたっぷり♪しっとりして、ホォワ~ンと美味しいの!」
「なるほど、砂糖代わりに蜂蜜ですか!」
マルコが言葉通りに生地を作り、焼くと花の蜜のような甘い香りが漂い始めます。
鉄板の上で生地がプツプツ話すと、ひっくり返して黙らせます。
そうして焼き上がったのは、こんがりと黄金色に輝く、分厚いパンケーキです。
「仕上げはね、このバラジャムだよ」
スプーンで初夏に煮詰めたジャムを、パンケーキにポトリと落としました。
熱で溶けたジャムから高貴で華やかな香りが立ち上がり、秋から初夏のように変わりました。
「エヘヘ……、ハチミツも、かけちゃおう……エイッ♪」
とろりと黄金のハチミツがパンケーキを包みます。
「……ふわぁ、いい香り。バラとハチミツが、おててつないだ!」
出来たてのパンケーキを一口食べたマルコは、そのあまりの幸福感に目を見開きました。
「これは……! ジャムに閉じ込められたバラの香りが、ハチミツのコクで何倍にも膨らんでいる。レオン様、あなたは本当に天才です……!」
「 ……ボクはデキる子よ、エッヘン♪」
腰に手を当て胸を張り、レオンは満面の笑みを浮かべます。それにあわせるように、マルコはハハァー……と頭を垂れました。
遊んだ後は、フワフワのホットケーキです。
二人でふわぁーとなりながら食べていると、アルベルトと騎士らが、バラの香りに誘われやって来ました。
……この後の予定は芋掘りです。
マルコと視線を交わして、二人してニタリと笑いました。
侯爵邸では、バラジャムの魅了に誘われて、ハチミツのホットケーキが胃袋と心を優しく掴んだようです。
「にいさま、がんばって!きしさんたち、がんばって!終わったら、フワフワが、待ってるよー!」
「がんばって下さい!今準備してますからー!」
アルベルトと騎士たちが芋掘りに精を出している頃、休憩の終わったニコはホットケーキを作る事になりました。
「……芋掘りとホットケーキ、どっちが大変かな?」
芋掘りが終わると騎士さん達は、フワフワのホットケーキを堪能しました。
「フワフワで、蕩けるように美味いなぁ」
……騎士さん達の顔も蕩けてます。
「ところでレオン、あの芋いつ食べるんだ?」
どうやら芋も食べる気満々だったみたい。
「あのおいもさん、ねんねしないと、甘くならない。残念なイモさん」
だから掘り起こした芋は、一週間くらい日に当てて貰い、もっと甘くなるのを、気長に待つのでした。
「……凄いな!」
あれから一週間以上経ち、にいさまと騎士さん達念願の焼き芋パーティーを開きました。
落ち葉を大量に集め、ジックリと焼いていくと、ネットリとした甘い匂いが漂います。
レオンが半分に割ると、中から黄金色の湯気が立ち上りました。
(やっぱり焼き芋だよね)
秋の空にほっこりした甘い匂いは、緩やか時間ときをくれました。
〖さらに数日後〗
「ブルーノ、この赤いみは、食べごろ?」
バラが初夏の華やかさを脱ぎ捨て、代わりに小さなローズヒップの赤い実がたわわに実っています。
「ええ、レオン様。霜が降りて少し柔らかくなった今が、一番甘みが乗っております」
レオンは真っ赤に熟した実をカゴに入れ、トテトテとマルコと厨房へ運びました。
「この実ね、チクチクな毛と種が、いっぱいだよ。だから取って、イガイガをなくす」
レオンは(マルコが実を半分に割り)中の種と毛を、キレイに取り除きます。
「そのままじゃえいよう、隠れたままだから……えいっ」
スプーンの背で実を軽くつぶすと、中からみずみずしい酸っぱい香りが広がります。
「ゆっくり、色がルビーさんになるまで……」
ポットに実を入れ、熱いお湯を注いで数分。
透き通った明るい赤の液体が出来上がります。
「……ふわぁ、匂いがいい。お花とは違う、リンゴみたいな、元気な匂い♪」
出来たてのお茶に、採ったハチミツを一さじ加えました。
「生は乾そうより、香りが優しい。酸っぱくないよ。マルコ、飲んでみて?」
「……! これは驚きました。口の中に広がる爽やかな酸味と、ハチミツのコク。冬の冷えた体に染み渡りますな」
マルコが感心していると、レオンはのんびりとポットを抱えました。
「これねえ様と、お外で、ブルブルなにい様たち、持っていくね。風邪さんにバイバイする。このお茶できるよ」
菜園は枯れているようで、実はちゃんと「冬の処方箋」を用意してくれています。
レオンはそれを誰よりも知っているのでした。
「全部のむは、もったいないね。……冬のおわりの、お楽しみにしよう」
カゴいっぱいに余った赤い実を眺めています。
ニコが乾燥の準備を手伝ってくれました。
「匂いがいいね、ニコ」
レオンは種を抜いた実を風通しの良い場所に、天日干しにするために並べました。
数週間後、カリカリに乾いた真っ赤な粒を指先で転がしながら、レオンは満足げに鼻を動かします。
「……ふわぁ、いい香り。お日様の匂いが、ギュッてしてるね」
ニコが隣で不思議そうに尋ねます。
「レオン坊ちゃま、生の方が美味しいんじゃないですか?」
ふと疑問に思い、3歳の賢者レオンに聞くと……。
「乾そうは、クスリが強いのよ。それに……」
レオンはニッコリ笑って、保存瓶を抱えました。
「雪がふって、お外でない時、この赤い実があると……みんなとっても嬉しいよ♪」
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




