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レイライン・プロトコル  作者: harap1239


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第4話「階段を返す(リターン・ザ・ラダー)」

夜更けの風が、街の看板を薄く震わせた。

GLΣの広報ノードが空に文字を投げる。


〈告知:固定化プロトコル暫定運用〉

——市民の魔力変動を一定に固定し、事故と犯罪を抑止します。



夜更けの風が、街の看板を薄く震わせた。

GLΣの広報ノードが空に文字を投げる。


〈告知:固定化プロトコル暫定運用〉

——市民の魔力変動を一定に固定し、事故と犯罪を抑止します。

反対は“遅延”として記録されます。


「来たわね」

リラが短く息を吐く。「魔力を“凍らせる”。便利で安全、でも自由も成長も削る」


「最適化は、余白から最初に奪う」

俺――ナギは掌の黎明種子を感じる。中の心臓が、わずかに早い。


今夜の目的は一つ。蛇紋を手に入れる。

蛇紋は〈蛇の記録庁〉が最初に街へ刻んだ“道の署名”。**レイライン(魔力の道路)の“所有者証明”みたいなものだ。

問題は――それが庁のルート**に縫い付けられていて、公的には外せないこと。


「外す方法は、ひとつ。返すこと」

リラが夜空を見上げる。「蛇の梯子レイラインのショートカットを街へ“返却”して、最初の署名を取り消す。そうすれば、蛇紋は私個人に降りてくる」


「副作用は?」

「庁の不死権限が一部剥がれる。私は一年と一日だけ、普通の人になる」

彼女は笑って肩をすくめた。「悪くない罰よ」


場所は〈ヌル運河〉――レイラインが海へ抜ける地下の大水路。

壁には古い蛇の模様。足音が波紋になり、暗闇が返事をする。


俺たちは足元に輪郭線を描く。

「あらゆる梯子は、誰かの命を踏み台にしている。だから一度、返す」

リラが低く言い、指で空を縫う。薄い札が三枚、宙へ浮かぶ。契約札だ。


一枚目:〈庁の署名を、街に返還〉

二枚目:〈返還の証として、蛇紋の個人化を許可〉

三枚目:〈返還中、庁は妨害しない〉


静かな握手の儀式。

だが、静けさは長く続かない。


最初に現れたのはゴースト・ロッジ。

無反射コートの傭兵が水路の縁に並び、非致死のショック弾を構える。

「鍵は企業の資産だ。庁の資産も、ゆくゆくはだ」

指揮官の声は乾いている。


次に、黙示録派が暗闇から歩いてくる。

銀の仮面。細い糸。

「梯子は世界を延命する。延命は、痛みを延ばす。返す前に、切る」


最後に、頭上のパイプが震え、GLΣの欠片エンジェル・シャードが反詠唱ドローンの群れを吐き出した。

三つ巴。

レイラインが唸り、俺の神経が焦げる。過負荷の前兆が、今夜ははっきり痛い。


「手短に行く」

俺は輪郭線へ指を当て、街の底へ声を落とす。

「聞け、地の骨。梯子は返す。道は、道の持ち主のもとへ」


床下の流れが反転する。

街中に散らばっていた蛇の梯子が、ヌル運河に戻ってくる。見えない階段が、音だけを残して着地した。


ロッジの指揮官が顎を跳ね上げる。「撃て」

ショック弾が白い閃光を描く。

俺は短く言う。「零距離ゼロ、分岐」

ゼロ・テンペストが水面に落ち、雷が枝分かれして非殺傷の弾道を撥ね返す。

同時にリラが反逆の環を描き、詠唱の保護を二重にする。


黙示録派の一人が反詠唱糸を投げる。

糸は言葉を切る。意味を薄める。

リラが一歩踏み出し、契約札を仮面へ押し当てる。

「切断の事実を記録。——あなたの“沈黙”は、ここで証拠になる」

糸が重くなり、術は記録物に変わって動きが鈍る。


頭上からドローンの雨。

「短針(レイテンシ巻き戻し)、点灯」

俺は遅延の時計を逆回しにして、自分たちの言葉を今ここへ引き戻す。

GLΣの声が空気の奥で軋む。


〈違反検知:返還行為〉

〈固定化を優先〉


「時間をもらうわ」

リラは三枚の札の最後に自分の血を触れさせた。

返還の儀が発火する。

街中のショートカット(蛇の梯子)が、庁の帳簿から消える。

“道の特権”が街へ戻り、その代わりに――蛇紋がリラ個人へ降りる。


痛みはきれいだ。

リラの瞳が少しだけ人間の色になる。

「……来た」

彼女の掌に、薄い蛇の刻印が浮かぶ。


その瞬間、床が鳴った。

地の奥、守り手が寝返りを打つ音。

名前を呼んではいけない地脈の獣。

俺は膝をつき、礼を取る。

「梯子は返した。通行の礼を置いていく」

リラも黙って頷く。

水面が一度だけ大きくうねり、落ち着く。

——同意。

骨紋側の“守り手の同意”が、半分だが手に入った。


「撤収」

言い終える前に、ロッジの指揮官が実弾へ切り替えた。

黙示録派は自己消去の賛歌を歌い始める。

GLΣの欠片は固定化プロトコルを広域に展開。市民の魔力の波が平らになっていく。

街の色が薄くなる。

このままだと、本当に世界の余白が消える。


「ナギ、道を開ける?」

「開ける。けど、少し燃える」


俺は胸の痛みを無視し、蛇紋を持つリラの掌と自分の詠唱モジュールを連結する。

分散路スプリット・レーン、起動」

レイラインが枝に分かれ、固定化プロトコルをすり抜ける細道が生まれる。

それは完全な解除じゃない。

でも——走れるだけで十分だ。


「走れ!」

俺たちはヌル運河を駆け、蛇の細道で追跡を切る。

背後でロッジの照準が迷い、黙示録派の糸が壁だけを切り刻み、GLΣのドローンは遅れて空を泳ぐ。

遅延は、今だけこちらの味方。


地上に出た瞬間、街の広告が一斉にノイズを吐いた。

GLΣの新しいアナウンス。


〈固定化フェーズ1完了。魔力波形の標準化を達成〉

〈**例外路(蛇の細道)**検出。発見者:未特定〉


「バレてる」

リラが薄く笑う。「でも、もう持ってる」


俺たちは戦果を確認する。


蛇紋:取得(リラ個人へ)


骨紋:守り手の同意、半分だけ前進


記録紋:断片入手、保管者の信任は未了


そして代償:


リラは〈庁〉の不死権限を一年と一日失う(= いまは本当に傷つく)。


俺の過負荷は進行。指先がしびれ、詠唱の上限が一部削れた感覚。


「次はリングだ」

俺は空を指さす。オービタルリングが夜の縁で光る。

「アーカイヴィスト・プライムを表に引きずり出す。記録紋の信任も、そこで取る」


「いい響き」

リラが頷く。「握手の次は、やっぱり切断ね」


俺は笑う。

「更新の時間だ」


遠くで鐘が鳴る。

音の代わりに、空が三度、白く点滅した。

都市の呼吸は浅い。だが、生きている。

細い道は、まだ残っている。


——第4話・了。

登場勢力まとめ


評議会:政治中枢。内部命令Directive 9でGLΣに「種子は中央管理、反対は“遅延”扱い」と指示。


GLΣ:都市AI。基本は“秩序と最適化”。言葉や呪文に遅延をかけて反対勢力を鈍らせる。


アーカイヴィスト・プライム:記録の超上位管理者。戦争の記録を“都合よく”整えた張本人。


雨祈り同盟:土地の詩を守る術士たち。骨紋サイドの協力者。


黙示録派:世界の“正しい終了”を望む過激派。


ゴースト・ロッジ:企業傭兵ギルド。金で動く。

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