唐突な手紙
あの日以来、夫婦らしく同じベッドで寝るようになった。最初は慣れなかった。人と眠るのは案外、安心することだった。だからジェラール様が屋敷を離れた時一人でベッドで眠ると、ベッドが広すぎて逆に眠れなくなった。非日常が日常へと変わっていく感覚があった。
最初は一日一日が長く感じていたけれど、慣れてしまうと半年という月日はあっという間に過ぎ去った。今は案外上手くやれていると思う。
ジェラール様とも、ケンカというケンカもせず、本当に穏やかに過ごしていた。月に一度はマーサへ手紙を書き、返信を読んだ。マーサだけでは屋敷の中を回せなくなり、二人腕利きの女性を雇ったらしい。私の時と違い、洋服の洗い方一つで文句が飛んでくるため、三人で愚痴を吐きながらどうにか家の中を回していると手紙には書かれていた。私との生活が恋しいとも。
最初は手紙で私が馴染めているか心配していたけれど、日々の生活を書き連ねていると、案外わかってくれたらしい。
私は身軽なドレスを着て、鋏を持ち中庭一面に咲いた花々の剪定をしていた。枯れた花を切り、枯れ葉を集める。随分と良い庭になってきた。毎日、朝と夕方世話をしたおかげだわ。
挿し木をしてもっと増やそうかしら。種から育てるのも悪くないけど、芽が出るまでが大変なのよね。それと冬になる前に寒さに弱い花は鉢に植え替えをしてやらないとね。
人の気配がして、振り返るとメアリーが手紙を持ってやってきた。
「奥様宛にお手紙です」
「ありがとう」
手紙といっしょにペーパーナイフを渡された。中々に高級な羊皮紙が使われている。送ってきた人は『ヴァロア子爵』。やっと父から初めて手紙がやってきたわ。私からも父に手紙を送ってきたけれど、一度も返信がこないから、もうずいぶん書いていなかったのよね。
ペーパーナイフで封を切り、手紙を取り出した。中を見ると、たった一枚だけ入っていた。
『拝復 時下ますますご健勝にてお過ごしのことと拝察いたします。さて、私事ながらこのたび、わが娘カタリナはクック家嫡子オリバー殿とのご縁を得、晴れて婚姻を結ぶ運びと相成りました。幼きころより我らと共に日々を過ごした妹が、良き伴侶を得て新たな門出を迎えること、誠に慶ばしく、同時に感慨もひとしおに存じます。つきましては、ささやかながら婚礼の儀を執り行うことといたしました。姉妹としてこの佳き日にお立ち会いいただき、妹の晴れ姿を共に祝していただければ、これに過ぎたる喜びはございません』
要はカタリナが結婚するから、結婚式に来なさいと言うことね。案外早く結婚相手が決まったじゃないの。場所は王都の大聖堂。大聖堂だなんて、何人の人を招待するつもりなのかしら。クック家は聞いたことがないけれど、どんなお金持ちなのかしら。
最後にはモンフォール家に送られてあった結婚式のウエディングドレスを返してくれという事が書いてあった。あのウエディングドレスどこへやったのだったかしら。全く忘れたわ。
「ねえ、メアリー、ウェディングドレス、どこへやったか覚えてる?」
「探しましょうか?」
「ええ、よろしく。それと、そのウェディングドレスを丁寧に箱に入れて、私の実家(私は手紙に記されたヴァロア家の住所を指さした。)ここに届けるように言ってちょうだい」
「分かりました」
夕食時にジェラール様にその報告をした。
「妹が王都にて結婚式を執り行うそうです。クック家のオリバー殿と。今日手紙がきました」
ワインを飲みながら眉をひそめた。
「そうか。いつだ?」
「九月の十日の様です。私はクック家を存じ上げないのですが、どのような方なのかご存じですか?」
「悪い奴ではないが、結婚するとなると大変かもしれない。ハンサムで、商人貴族だから金もあるが、少し問題がある」
ハンサムでお金持ちならカタリナが飛びつきそうな物件だけど、ジェラール様の言い方じゃ、結婚生活は大変なのかもしれないわね。
「出席してもよろしいでしょうか?」
「ああ、その時は俺も行く」
「ありがとうございます」
もしかしたら義母ともまた顔を合わせるかもしれないし、義姉とも顔を合わせるかもしれないと思うと少し嫌だけれど、仕方がないわよね。人生ってそういうものだわ。結婚って楽じゃないんだもの。ジェラール様もいらっしゃるし、そんな大きな問題なんて起きないとは思うけれど。




