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第13話『オッサン、もふもふと出会う』


「ちっ……マチルダ、下がってろ」


 飛び出してきた銀狼(ぎんろう)を迎撃すべく、俺は魔力を練る。


 炎魔法だと森に延焼してしまうし、ここは地属性魔法だ。鋭い石柱を地面から出現させて、奴を串刺しに……!


「待て待て。こいつは味方じゃ」


「なに?」


 俺が魔法を発動する直前、マチルダが声を弾ませながら魔物に歩み寄る。


 すると、彼女の背丈の三倍はあろうかという巨体が腹を見せて仰向けにひっくり返った。


「ヘギルよ、久しぶりじゃのー。だいぶ年を取ったようじゃが、元気じゃったかー?」


 その体毛に体を埋めるようにしながらマチルダは言う。その様子はさながら、大型犬と戯れる少女のようだった。


「マチルダ、そいつはいったい……?」


「こいつはヘギル。エリッタの飼い犬じゃ」


「飼い犬」


 俺は思わず二度見してしまう。銀色の立派な体躯に巨大な口。その間からは鋭い牙が見えている。


 ……どう見ても犬じゃねぇ。狼だ。


「アルも一緒にどうじゃ。もふもふじゃぞ」


「いや、俺はいい。近づいたら、それこそ一飲みにされそうだ」


 思わず後退りしながら、俺は答える。


 巷で噂になっている森の魔物の正体は、ここに住まう錬金術師の飼い犬だったわけか。


 ……その後、ヘギルの案内で錬金術師エリッタの家へ向かうことになった。


「そうかそうかー。相変わらず錬金術に明け暮れておるのじゃな。変わっておらぬのー」


 前方を行く銀狼の背に乗ったマチルダは、楽しそうに話をしていた。あいつ、動物の言葉がわかるのか?


 ちなみに、俺はその背には乗せてもらえなかった。


 理由はわからないが、乗ろうとしたらめちゃくちゃ抵抗された。あれか? オッサンは乗せたくないってか!?


 なんとも言えない敗北感を味わいながら、森の中を歩くことしばし。木々の間に溶け込むように、小さな家が見えてきた。


「ここがそうなのじゃな。おーい、エリッタ、わしじゃー」


 銀狼の背からさっそうと下りたマチルダは、持っていた杖の先で木のドアを叩く。ややあって、メガネをかけた女性が顔を覗かせた。


「わ、マチルダ先輩!? ど、どうしてここに!?」


 驚きのあまり見開かれた瞳は藍色をしていて、わずかにウェーブがかかった長い黒髪の間から覗く細く尖った耳が、彼女がエルフ族であることを示していた。


 その顔に若干のあどけなさが残るものの、マチルダより明らかに大人の女性といった風貌だった。


 話には聞いていたが、こうして実際に目の当たりにしてみると、マチルダと同じ種族だとはとても思えない。


「ちょっと野暮用でのー。話したいこともあるし、上がらせてもらっていいか?」


「もちろんです。散らかってますが、どうぞ」


 彼女はそう言って扉を開けてくれるも……続いて俺の姿を見て、固まった。


「え、もしかして、あなたもマチルダ先輩のお連れの方です、か……?」


「ああ。俺はマチルダの旅の仲間で、アルバート……」


「あ、あわわわ、ちょっと待っててください! 入っちゃダメです!」


 俺の自己紹介を遮るように叫び、壊れるんじゃないかという勢いで扉を閉める。


「ふぎゃ!?」


 中に入りかけていたマチルダは、その扉に弾き返される形で外に転がり出てきた。


「あいたたた……あそこまで動揺することもなかろうに。今日はよく顔を打つ日じゃ」


 涙目で言いながら、マチルダは鼻をさする。そんな彼女を、飼い犬のヘギルは心配そうに見ていた。


 そんな間にも、「あああ、まさか男の人が来るなんて……」とか「しっかり。大丈夫。食べられないから」なんて声が家の中から聞こえてくる。


 彼女の男性恐怖症を治してやる……マチルダはグロリエとそんな約束していたが、本当にうまくいくんだろうか。


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